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ミッション:8ミニッツ(原題:Source Code)

いつも音楽のことばかり書いていますが、一応このブログには「映画」のカテゴリが存在するので、今日は最近観た中でも特に面白かった映画「ミッション:8ミニッツ」の感想を書きます。いや、あれを観たら何か書かずにはいられなくなりますって(笑)。



ミッション:8ミニッツ (原題:Source Code)
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【以下ネタバレ含みますので、まだ観ていない方はご注意ください】

「月に囚われた男(原題:Moon)」のダンカン・ジョーンズ監督によるSFサスペンス。まあサスペンスかどうかは観た人の判断に委ねるとして、一応そういうことになってます。「月に囚われた男」は、ストーリーの展開自体はかなりベタながらも、話の設定はすごくユニークだしテーマが哲学的だったので、とても楽しめる作品だった。そんなダンカン・ジョーンズ監督の作品ということで結構楽しみにしてましたが、先に結論言ってしまうと予想を遥かに飛び越えてました。めちゃくちゃ面白かった!



簡単なあらすじ。米軍兵のコルター・スティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール)は、突然シカゴへと向かう列車の中で目を覚ます。向かいには見知らぬ女性。どうやら、自分がこの女性の恋人にすり替わってしまっているようだった。そんな状況に混乱しているところで、列車が爆発を起こす。そこで意識が戻ると、彼は薄暗くて狭い空間の中にいた。モニターには制服を着たグッドウィン(ヴェラ・ファーミガ)と名乗る女性と杖をついた男。そしてスティーヴンスは彼らから驚くべきミッションを聞かされる。シカゴで先ほど列車の爆破テロ事件があり、犯人が次なる爆破テロを狙っているという。自分は列車事故の犠牲者の死ぬ直前の8分間の記憶の中に潜入し、そこで起こったことを追体験することで犯人の手掛かりを追うというミッションだ。しかし彼は犯人を追ううちに、自分の身に起こった驚愕の事実を知ることになる・・・。



なんかどこかから持ってきたような気取った文章になってしまった(笑)。さて、映画を観てまず感じたのが「月に囚われた男」との共通点。これは2作品観た人はさらに楽しめると思う。ざっと共通点を挙げると、こんな感じ。

-組織のミッションに関わるうちに、その裏にある陰謀に気付く
-モニターを通じての会話シーン
-主人公が次第に「もう一人の自分」の存在に気付き、苦悩する

実は細かいところで他にも共通点があるらしく、松竹剛さんのブログによると「ミシェル・モナハン演じるクリスティーナの携帯電話に届く元彼からの着信音がChesney Hawkes『The One And Only』でしたが、『月に囚われた男』でもこの曲が主人公の目覚まし音として使われて」いるそうです。うわ、マニアック!しかしどんな意図なんだろ・・・単純に監督の趣味でしょうか?



さて、この映画の魅力はいくつもあるけど、まずオープニングからして引き込まれる。最初はシカゴ中心部のオフィス街や、のどかな郊外の空撮映像。これがまたとても美しくて、シカゴに行きたくなった。ビル群も都会的で、でもニューヨークみたいな閉塞感がなくて(天気がいい日の撮影なせいもあるんだろうけど)、郊外は郊外ですごくのんびりとした田園風景。そこからスティーヴンスが目覚めるシーンにいくのだけど、ここからの8分間はいろいろな伏線が張られていますと言わんばかりの数々の「現象」が次々と起こる(「現象」というより、乗り合わせた乗客たちの行動ですが)。それらの一つひとつを逃すまいと全神経を集中させて見入ってしまった。そして8分後には、列車の大爆発が起こる。ここまでで既に、「この映画は面白いに違いない!」と妙にワクワクさせられてしまった。冒頭のこの10分間で、観る者をこれほどまでに映画の世界に引きこんで魅了する作品というのもなかなかないんじゃないだろうか。観る者の心情的には「陶酔→混沌→衝撃」という、とてもコントラストの強い心理を抱くことになる。



前半のストーリーの軸は、「列車の爆発犯は誰か?」ということにある。8分間の記憶トリップは何度も繰り返されるので、テロの標的となる列車に乗車していた乗客(お笑いコンテストの出場者や大学生、キレキャラの男など)、車掌ら様々な登場人物が交差する中でいかにも暗示的なシーンが繰り返され、見ているこちら側はついあれこれ推理し始めてしまう。でも、スティーヴンスが自分の本当の状況を知らされることで、次第にストーリーの軸がシフトしてくる。最終的に完全に軸がすり替わるのは中盤の爆破テロの犯人が捕えられるところだけど、これがかなりアッサリと描かれている。そのせいか、観ている最中は「何でこのシーンこんなに雑なんだ・・・」と思ってしまった。しかしよくよく考えてみると本作の中で犯人を捕えるということはあんまり重要じゃないんですね。だからあえて、「ここからが本当のテーマですよ」と観ている側にわかりやすくしようと、あのような味気ない逮捕劇にしたのかもしれない。おまけにテロの犯人はしがない小太りの青年だし、テロを計画した理由も「この世の中は腐ってる。だから一回全部ぶっ壊して、作り直すんだ」なんて、まるでどっかの三流ドラマから引っ張ってきたような適当さ。この辺りも、観ているときはその単純で何のヒネリもない設定に拍子抜けしてしまったのだけど、後から考えるとそういうことなのだろう。つまりそんなことはこの作品において重要ではないということ。もしこの映画を単純にテロの犯人探しの捕物映画だと思い、最後までそう思ったままで観てしまったとしたら、この映画はひどくつまらないものに感じるのかもしれない。何となく某映画サイトのレビューを読んでみたら、そういう風に観てしまった人が多かったのにはいささか驚いた。



この映画はそんな風に、言ってみれば二部構成みたいな雰囲気なんだけど、実にコンパクトによくまとまっていると思う。「ミッション:8ミニッツ」は93分、「月に囚われた男」は97分といずれも短めだし、たぶんダンカン・ジョーンズ監督はこの長さを意識してるんじゃないかな。「観る人の集中力が持つ時間」として90分を目安に考えているのかもしれないし、余計なものを入れずに、全ての事象が一つの結末に直結している方がメッセージが伝わりやすいという考えなのかもしれない。冗長にはせず、90分の中ですっきりまとめるというのは非常にいい姿勢だと思う。一瞬たりとも退屈なシーンや余計なシーンがなかったし。



で話を戻すと、後半の犯人逮捕後の話の主軸は何かというと、「自分は誰なのか」「この世界は現実なのか、作られた記憶に過ぎないのか」という問いにスティーヴンスが苦悩するところになってくる。自分は犯人を見つけ出し、テロを未然に防いだ。それなのに、現実の世界ではテロはすでに起こっていて、たくさんの犠牲者が出ている。スティーヴンスが記憶の中に入り込んだ相手であるショーンも、その恋人であるクリスティーナも死んだという事実は変わっておらず、ミッションの指示者である男からは「これはタイムトラベルではない。時間軸は変えることはできないから、事実も変わられない」と告げられる。スティーヴンスが疑念を抱いたこの命題は、その答えが明確に提示されないまま映画は終わる。提示されないというよりはむしろ、観た人にいくつかの答えを提示していると言ったほうが正しいのかも。



この映画みたいに、ラストに暗示的なシーンがあっていろいろな解釈が生まれる映画って大好きなんですよね。例えば「ブレードランナー」における「折り紙の馬」だったり、「インセプション」における「回り続けるコマ」だったり。そういった印象的な小物は本作には登場しないんだけど、ラストで鏡状のオブジェに映る姿がスティーヴンスではなくショーンだったり(そこに気付かなかった人もいるかも?)、グッドウィンの携帯に届くメールだったり、「つまりこれってどういうこと?」的な念を起させる演出がいくつか用意されている。一つの答えがはっきり出ている映画より、観た後に「あれはこーで、あーで」ってなる映画に魅力を感じてしまう。一体どれが現実で、どれが記憶の世界なのか。観終わった後にあれこれ考えるのはとても楽しかったし、いろいろな人の解釈を読むのも楽しめる(プログラムが置いてればもう少し真の解釈に近付けたんだろうけど、なんと完売していた。後日また買いに行く予定)。



映画を観た後に読んだレビューの中で、ひとつ興味深い解釈があった。生命維持装置を切られる最後の8分間のトリップ中にスティーヴンスがクリスティーナに「人生が残り1分だったら何をする?」と尋ねる(そこでクリスティーナがなんて返したか全然思い出せない・・・)。そして2人がキスをして世界が制止するシーン。これは本作の中でもっとも美しくて印象的なシーンであり、僕はここで泣いて(いや目頭がジンワリきた程度ですよ!照)しまったのだけど、つまりここで生命維持装置は切られてスティーヴンスは死に、ここから先のシーンは死後に残った8分間の記憶の中で作られた世界なのでは?という解釈。それが正しいものとするといろいろと矛盾が生じてきそうだけど、そういう解釈も面白いし、監督自身もいろいろな解釈を与える余地を残している感じがした。



でもこの映画で言いたいことは、例えば「人は死んでも記憶の中でその人の世界は存在し続ける」とか「もし人生があと1分で終わるとしたら」とか、そういうことを通じて「自分を信じること」「人生の一瞬一秒を大事にすること」じゃないかなと思う。パラレルワールドであれ、実存しない記憶の中の世界であれ、その世界の中で確実に存在するものは自分であり、自分が存在する世界が真実である、ということになるのかな。「我思う、ゆえに我あり」とはデカルトの有名な言葉だけど、つまりそれに近い思想。エンドロールが流れて客電が点いてからの気持ちは「インセプション」を観た後の気持ちにも似てて、いろいろなシーンを回想しながらあの世界はこれで、これはあの世界で、だからこの世界は現実で・・・みたいにしばらく考えていました。



こう書くと、何だか難しい話のように思えてしまいますが、単純にロマンティックなライトSFとして観てしまっても十分に楽しめる。それはラストの爽快感によるものだろう。ショーンとクリスティーナは2人の明るい未来を感じさせ、時間軸がテロの起こる前に戻ることでグッドウィンも処分が下されておらずホッとする。そして何より、スティーヴンスは自分の父と電話で話すことができ、ショーンの存在を借りることで父親への思いを伝え、父親の思いを聞くことができるという、とても胸のすくエンディングだった。「月に囚われた男」でも、ラストでパタパタと希望が見えてくる爽快感があって、その「希望のラストシーン」への持っていき方も2つの映画における共通点の一つ。この映画は間違いなく、今年観た映画のダントツナンバーワンです(そんなにたくさんは観てないんだけど)。ダンカン・ジョーンズは「月に囚われた男」と本作で、人間の存在意義を問う作品を作り上げることに成功した。そして孤独や苦悩を味わいながらも最後には希望を見出すことができるラストがありつつ、観る側に問題提起することも忘れない優れた作品を生み出したことで、才能に溢れた監督であることを証明したと思う。今後の作品が非常に楽しみです。



たったひとつ不満を挙げるならば、邦題とキャッチコピー「警告:このラスト、映画通ほどダマされる」ですね。これは監督に全く非はないのでちょっと気の毒。「ミッション:」から連想させるようなスパイものではないうえに、劇場で配布された小冊子が「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」のものだったのでやたらと商業臭くなってしまった。ラストは何がダマしなのかはよくわからないし。まあ、予想を遥かに超える出来だったという点では確かに(いい意味で)ダマされたと言えなくもないですけどね。





両方観るとなお面白い

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