初聴きディスクレポート

初聴きディスクレポート Vol.38(2012年8月)

8月に買った&借りたアルバムの「いちばん最初に聴いたとき」の感想まとめです。今回は新譜少なめ。サマソニなどでお金も新譜チェックの時間もあまりなかったので、主にレンタルとフリーのミックステープで新しい音源を掘っていましたね。


<★の解説>----------------------
★★★★★年間ベストアルバム20位以内確実
★★★★☆すばらしい
★★★☆☆標準レベルの良作
★★☆☆☆若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆期待ハズレ
☆☆☆☆☆全然ダメでした
---------------------------



ではさっそく8月の「Album of The Month」の発表です。ちょっと意外な結果に。



【Album of The Month - Thomas Tantrum / S.T.】
★★★★★
thomas tantrum

このブログで「Album of The Month」を始めてから、新譜(その年リリースの作品)以外が選出されたことは初めて。今回はたまたま対抗馬となりうる強力な新譜に巡り会えなかったということも要因としてはあるんだけど、それにしても2008年にリリースされたトーマス・タントラムのデビューアルバムは、自分にとっての細かいフェイバリット・ポイントをいちいち刺激してくる「ぶっ壊れたピュアネスを抱えたイタズラっ子たちによるポップアルバム」だと思う。つまり子供が、ピュアであるがゆえに(悪意なしに)イタズラしてしまうっていうアレ。

今年の春にようやく聴いた彼らのセカンド作「Mad By Moonlight」も確かによかったのだけど、今となってはわりと小ぎれいにまとまったアルバムだった。そう思えるほどこのデビューアルバムは、ガチャガチャと各パートがイビツに組み合わさり複雑な展開を見せながらも、不思議と整合性が取れている。稚拙な表現になってしまうけど、例えるなら本作はホームパーティーで繰り広げられたジェンガ・ゲームの、まさに倒壊寸前の一瞬をキャプチャーしているかのようだ。今にも崩れそうなほどガタガタなのにギリギリのバランス感を保っているところ、そしてプレイヤーたちのドキドキ感と、華やいだパーティーらしい和気あいあいとした雰囲気。そんなパーティームードを感じさせる要因は、テンポや曲調がコロコロ変わる奇抜なアレンジと、言葉遊びのようにリズミカルな歌詞を載せたミーガン・トーマスのキュートな小悪魔ヴォーカル、そして豊富なフックを備えたキャッチーなメロディに他ならない(余談ではあるけど、それらの要素を全て兼ね備えた他のバンドとして、ジュディ・アンド・マリーの名が浮かんだ)。リリースから現在までの4年の遅れを今から取り戻すくらいに何度も聴き込みたいアルバムだ。

Thomas Tantrum - "Work It"






Chapterhouse / Whirlpool
★★★★☆
なぜこのアルバムを今までスルーしてきたのか・・・。10年ほど前に試聴したことはあったけど、その頃から既にシューゲイザーは好きだったにもかかわらず全くピンと来ずに避けてきたバンド。その時の曲の印象と今回あらためて聴いた印象が違いすぎて、それが単純に自分の趣味趣向が変わったからなのか、間違って試聴機内の別のアーティストの再生ボタンを押してしまっていたのかは永遠の謎。

それはさておき、メロディ・音・ヴォーカルのどれをとっても最近の新人シューゲイザーバンドなど一蹴してしまうほどにクオリティが高い(あとアートワークもよい)。マイブラ、ライド、スロウダイヴはいずれも「90年代シューゲイザー」と括られながらも、その音楽性はそれぞれ異なるけど、チャプターハウスはそれら3つのバンドといずれも等距離に位置しているように感じた。ライドの力強いリズム、スロウダイヴの美しい叙情性、マイブラの陶酔感・酩酊感が全て揃っている。セカンド「Blood Music」も近いうちにぜひ聴いてみたい。




Purity Ring / Shrines
★★★★☆
氷の結晶が弾けるようなシンセ・サウンド、リヴァーブのかかったキュートなボーカルとくれば、間違いなく自分の食指は動く。しかしそれだけなら曲を聴いて「いいな」と思ったところで、最近あまたにいるインディー・ドリームポップのひとつとして埋もれていただろう。そんな中で彼らは、00年代前期のR&Bによくみられた音色のビートを使うことによってしっかりと独自性を打ち出していると言える。

ただ、自分たちのアイデンティティとも言えるそのビートにこだわったためか、アルバムを通して聴くとどれも雰囲気が似てしまっている感は否めない。もちろんそれは意識的にそうしたのかもしれないし、曲単位でみれば珠玉の名曲揃いなのは間違いないのだけど、アルバム全体としての緩急があればさらによかった。次作でどう出るか期待。




Jonathan Boulet / We Keep The Beat Found The Sound See The Need Start The Heart
★★★★☆
オーストラリアのフォークポップシンガーのセカンド。あのModularからリリースされていることにまず驚きなのだが、レーベルのカラーとも言えるエレクトロな要素は皆無。なんとも形容しがたい、聴けば聴くほど実態が見えない不思議なサウンドに仕上がっている。フォーク/トラッドを基調にしながらも、音は完全にバンドサウンドで、それもかなりパンキッシュ。オープニングを飾る「You're A Animal」(YouTubeで聴く)はドカドカゴロゴロしたドラムが鳴り響くなかで、轟音ギターとフリート・フォクシーズばりの重厚なコーラスが乗る。次の曲ではアイリッシュトラッドな雰囲気も感じさせつつ、Vampire WeekendやGiversのようなトロピカルなムードも…たぶん、こんな文章を読むよりも音源を聴いてみる方が早いと思うのでこちら(「This Song Is Called Ragged」)をチェックしてみてください。




JJAMZ / Suicide Pact
★★★★☆
The LikeのZ・バーグがボーカルで、マルーン5、ライロ・カイリー、ファントム・プラネットのメンバーも含むバンドのデビュー作。LAらしいカラッとした仕上がりの、夏にぴったりな軽快なロックンロールがかっこいい。Zの声も今までよりも明るく弾けているように聞こえる。「LAX」と「Cleverly Disguised」(You Tubeで聴く)が個人的ベストトラック。特にストロークスの「Undercover of Darkness」を彷彿とさせる後者はこの夏のアンセム。




Fucked Up / David Comes To Life
★★★☆☆
今まで、曲はキャッチーでいいと思いながらも絶叫系のボーカルが苦手だったのだけど、フジロックで最高のライブを観て以来俄然聴く気になった。パワーポップばりの明るいメロディ、ときおり加わる女性コーラスなど、聴きやすい点はたくさんあり、ボーカル・ダミアンの絶叫ボーカルもカッコいい(と思えるようになった)。ただアルバムが長すぎるのが難点。コンセプト仕立てのアルバムだからなのだろうけど、全18曲・77分というのはやはり通しで聴きづらいし後半は飽きてきてしまう。最後の2曲は好きなんだけど。




Azealia Banks / Fantasea
★★★☆☆
実は世間の評判ほどには彼女に期待していなかったのだけど、このフリーのミックステープから先行公開された「Jumanji」(YouTUBEで聴く)がすごくカッコよかったのでDLしてみた。Prodigyのアンセム「Out of Space」にそのままラップを被せただけの曲や、キレッキレの高速ラップを聴かせる表題曲「Fantasea」をはじめ、ハウス、ヒップホップ、ブレイクビーツをクロスオーバーしながらフリーキーかつクールに放たれるAzealiaのラップがとにかくカッコいいの一言。来年2月に予定されているデビューアルバムがとても楽しみ。
Azealia Banks / Fantasea
※ちなみに現在はDL終了



Blonde Redhead / Melody of Certain Damaged Lemons
★★★☆☆
4AD時代の3作品しか聴いたことがなかったのでTouch & Go時代のアルバムもということで、まずはT&G時代の彼らの最後のアルバムから。レーベルが違うだけでこんなに音楽性も変わるのかと思うほどにこちらは4AD色が薄く、一点の汚れも知らないようなあの耽美な世界観はない。いかにもニューヨークという感じの、少し前衛的かつパンキッシュで、とりわけ「Mother」(YouTubeで聴く)は現在の彼らからは想像も付かないような異色なパンクソングで、これが最高にカッコよかった。もちろんこの曲以外では、カズ・マキノのセクシーなウィスパーヴォイスが堪能できる。




jj / High Summer
★★★☆☆
スウェーデンの男女デュオがフリーDLで発表した5曲入りEP。冒頭を飾る表題曲「High Summer」(YouTubeで聴く)は、月夜が似合いそうなほどに神秘的で美しく、幽玄さすら感じさせる。その他の曲の印象がすごく薄いのだけど、それだけのこの曲のインパクトが強かったということだろうか。
jj / High Summer
9月1日現在、こちらからダウンロード可



Lucky Soul / The Great Unwanted
★★★☆☆
初期のザ・カーディガンズ、クラウドベリー・ジャム、ザ・スクールの系譜に連なるレトロなガール・ポップ。メロディセンスに関してはこれらのバンドより劣るものの、可憐なボーカルが素晴らしい。これぞ心躍るポップアルバム。ほどよいガレージ・ロックンロール具合も高く評価。




The Flaming Lips / 1984-1990
★★★☆☆
1984年のデビュー初期から91年まで(タイトルの表記上は90年となっている)のベスト盤。時系列順に並べられているので、ダークで実験的でジョイ・ディヴィジョンのようだった初期から次第にポップネスを増していく経過が辿れるのが非常に興味深い。また、本作を聴くと2009年のアルバム「Embryonic」が方向転換というよりも、原点回帰の作品だったということがよくわかって面白い。




Jens Lekman / Night Falls Over Kortedala
★★★☆☆
スウェーデンのSSW。いかにも北欧らしい清涼感溢れるメロディが素晴らしく、子供の声や打ち込み、ウクレレ、グロッケンシュピール、フルートなど多彩な楽器を用いたチャイルディッシュなサウンドと、ジェントルな雰囲気も漂うボーカルとの相性が意外にもいい。ベルセバやソンドレ・ラルケに近いものを感じる。もっとアヴァンギャルドに暴れてみても面白いと思うので、9月3日にリリースされる新作が楽しみ。




The Tough Alliance / The New School
★★☆☆☆
メロディアスな歌モノエレポップ。もちろん悪くはない。ただ、彼らの片割れEric Berglundによるプロジェクト、ceoの2010年作「White Magic」を年間ベストアルバムの1位に選出した身としては、かなり期待していたわりにはそこまでではなかった。ceoにおける魅力――トランシーなダンストラック、メルヘンチックな生楽器音、エモーショナルなヴォーカル、全体を覆うスピリチュアルなムード――はここにはなく、悪い意味でチープに聞こえる。




Frank Ocean / Nostalgia, Ultra
★★☆☆☆
7月にリリースされたアルバム「Channel Orange」が高い評価を得ているオッドフューチャー(OFWGKTA)のメンバー。こちらは2011年にフリーで公開されたミックステープ。コールドプレイの「Strawberry Swing」やMGMTの「Electric Feel」をサンプリングした曲や、スキットでレディオヘッドの曲が顔を出したりしていてかなりロックファン向けな内容なのだけど、自分にとっては逆にそこがあざと過ぎてダメだった。1フレーズサンプリングは好きだけど、本人の音源をそのまま使ったものはあまり好きではないかな…。(でもなぜかAzealia Banksの「Out of Space」はオッケーなのだけど。不思議です笑)
Frank Ocean / Nostalgia, Ultra
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