初聴きディスクレポート

初聴きディスクレポート Vol.51(2013年9月)

2013年9月に初聴きした音源の感想まとめです。今月は過去最多クラスの新譜リリースラッシュでした。ですが購入もあまり追いつけていないし、購入していてもまだ未開封だったり、何タイトルかは10月に持ち越し。それにしてもさすがに期待値の高い新譜が多かったため、5つ星もたくさん(これも過去最多?)ありました。

<★の解説>----------------------
★★★★★ 年間ベストアルバム20位以内クラス*
★★★★☆ すばらしい
★★★☆☆ 標準レベルの良作
★★☆☆☆ 若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆ 期待ハズレ
☆☆☆☆☆ 全然ダメでした

*今年リリース作ではない場合、旧譜のみから選ぶ年間ベストアルバムの20位以内クラス
----------------------------

では9月の「Album of The Month」から。


■■■■■Album of The Month■■■■■
Keep Shelly In Athens / At Home (2013)
★★★★★
KeepShellyInAthens_AtHome_20130928124935baa.jpg

「ゴシック・ドリーム・ポップ」なんてキャッチコピーが付けられそうな、ほんのりダークさを窺わせるギリシャの男女デュオによるデビューアルバム(去年リリースされた「In Love With Dusk/Our Own Dream」はEPの日本独自編集盤だったんですね)。ギリシャ出身という出自のせいか、最近の英米のアーティストにはない独特な(ちょっと古臭い)音の使い方が逆に新鮮。「Higher」などは90年代のトリップホップ(それもPortisheadよりはLamb、Sneaker Pimps、Esthero、Cold Feet辺り)のような雰囲気も感じさせる。トリップホップはビート面においてはヒップホップからの影響が強かったけど、彼らはダブステップのビートを拝借したトリップホップとでも言えそう。

また、サラ・Pのウィスパーボイスは「優しさ」や「柔らかさ」よりも「妖艶さ」「神聖さ」といったムードが強く感じられるところがエリザベス・フレイザー(Cocteau Twins)にも通じるものがある。ちなみにサラ・Pは当ブログの企画「IRJ(いんでぃー・ろっく・じょし)48」にも選出された美貌の持ち主でもある。

Keep Shelly In Athens - "Oostende"




The Knife / Silent Shout (2006)
★★★★★


今年リリースされたアルバム「Shaking Habitual」を本作よりも先に聴いたので、これまではThe Knifeに対してもっとアグレッシヴでダークでアヴァンギャルドなイメージ(カリンのプロジェクト、Fever Rayみたいな)が強かった。でもそんなイメージを完全に覆すほど、本作は非常に聴きやすくてポップな作品だと思う。とはいえ、決して明るくはない。ダークな世界観を保持したまま、ここまでポップ性が感じられるというような作品もなかなかないと思う。歌謡曲風な哀愁メロディーが日本人には耳馴染みが良い「Marble House」と、ビートレスながらハードトランスな音の仕上がりの「Forest Families」が特に良かった。

The Knife - "Forest Families"




Icona Pop / This Is…Icona Pop (2013)
★★★★★


「今のポップチャートは軽薄なEDMで溢れている」という風潮に対して「それの何が悪いワケ?アタシらはこれがやりたいのよ!」と啖呵を切るような、完全無欠のダンス・ポップ・アルバム。そんな思いを反映させるかのように「I don't care / I love it」と歌いあげる大ヒット曲「I Love It」で幕を開ける本作は、そのテンションをキープしたままひたすら飛ばしまくり。中盤で少しテンポは緩むものの、純度の高いポップなメロディーとダンサブルなビートはそのままに、そして終盤は再びアゲつつ全11曲を33分で駆け抜ける。何の衒いもなくポップと快楽を追及する彼女たちの潔い姿勢は全面支持したい。

Icona Pop - "All Night"




Tom Odell / Long Way Down (2013)
★★★★★


今年のフジロックのレッドマーキーで観た、全身全霊を捧げるかのようなパフォーマンスもアツかったUKのピアノ・シンガー。静かなバラードでも、「Hold Me」みたいな激しくロックする曲でも、彼のピアノと声はまさに「エモーショナル」という言葉がよく似合う。しかしそれ以前に、曲がよく書けている。全曲シングルカットできそうなほどに珠玉のメロディーづくしだと思う。

Tom Odell - "Grow Old With Me"




Youngblood Hawke / Wake Up (2013)
★★★★★


昨年リリースされていた「Youngblood Hawke EP」収録の「Passion Pit × Grouplove」な必殺チューン「We Come Running」で一発KO、当ブログの「SOUND OF 2013」でも5位に選出されたLAの男女5人組バンドによるデビュー作。正直「We Come~」が素晴らし過ぎて、「たぶん一発屋だろうけど、この曲目当てで買ってもいいかな」程度の気持ちだったのだけど、意外(?)にも他の曲も「We Come~」に負けず劣らずのクオリティ。一度聴いたら頭から離れないキャッチーなメロディーとシンガロングを呼びそうな男女コーラスが絶妙で、今後もここからシングルヒットが生まれるかも。

Youngblood Hawke - "We Come Running"




The Weeknd / Kiss Land (2013)
★★★★★


ミックステープ三部作の頃は良い曲もいくつかあったものの、サンプリングネタの功績によるところが大きかったしそこまで好きなわけではなかった。でも本作に先駆けて公開された曲「Belong To The World」があまりにも良かったのでかなり期待をしていた(とはいえ、これもPortisheadのサンプリングによるところが大きいけど)。本作はその期待を裏切らない出来で、映画「ブレードランナー」を思わせるオリエンタリズムとフィルム・ノワールとSFの融合というムードで統一されていており、日本語を配したアートワーク、9曲目「Pretty」における日本のAVからのものとみられる喘ぎ声のサンプリングなど、日本人からすると少々笑ってしまうところもあるけど、「ブレードランナー」で漂っていた「近未来アジアの大都市における異国情緒」を凝縮したような世界観がとても良かった。

The Weeknd - "Belong To The World"




Factory Floor / Factory Floor (2013)
★★★★★


メロディーらしいメロディーがはっきりとあるわけでもなくほとんどが長尺なのに、なぜこんなにも彼らのサウンドに惹かれてしまうのか不思議。頭よりも先に体が反応するというか、プリミティブなダンス欲求を満たしてくれる何かがある。エレクトラグライドでのライブも楽しみ。

Factory Floor - "Here Again"




Washed Out / Paracosm (2013)
★★★★☆


前作「Within And Without」からだいぶ変わった気がする。アートワークが示す通り、南国ジャングルの楽園にいるようなムードが全編に漂い、「チルウェイヴ」「宅録」といったものから大きく飛躍を遂げて、より洗練された音に仕上がっている。それだけでなく、メロディーも以前のようなどこかソウルフルな要素が抜けて、より万人受けしそうなポップな要素が増している。この変化に戸惑う人もたくさんいそうだけど、自分にとってはこの方向は非常に嬉しい。



Cocteau Twins / Garlands (1982)
★★★★☆


オリジナルアルバムのコンプリートを目指し中のCocteau Twins。そのデビューアルバムである本作は、その後のドリーミーな作風とは異なり鋭角的なギターがギャンギャンなっていてとてもパンキッシュ。エリザベス・フレイ ザーの歌声もささくれ立った感じがあるし、鳩の首でも絞めているかのような妙なビブラート(?)がなんとも気持ち悪くてかっこいい。強いて難点を挙げるとすれば、 リズムマシンの音が全てワンパターンということ。いかにも80年代風なチープなこのドラム音自体は好きだけど、全曲ともに同じ音色が使われていると少し飽きてくる。



Glasvegas / Later...When The TV Turns To Static
(2013)

★★★★☆


暗めの曲が大半を占め、路線的には1stよりも2ndに近い。よって世間的にはあまり売れないと思うけど、相変わらずのエモでマッチョでしゃくり上げる歌い方、シューゲイザーなギターノイズに加え、今回はグランジ風の粗いギター音が加わっていたり、初期から徐々に音は変遷しつつある。それでいて明るかろうが暗かろうが、どちらにしても「ポップでいい曲」な金太郎飴状態。ただしラストのシークレットトラックは蛇足。



Travis / Where You Stand (2013)
★★★★☆


しばらく追っていなかった彼らだけど、本作からの先行シングル「Moving」(ミュージックビデオも秀逸)は再び彼らに心を戻すには十分すぎる名曲。他の曲も瑞々しさと高揚感と哀愁を伴った美しい曲ばかり。ただし中盤以降「New Shoes」などは、曲そのものはいいのだけど本作の中では浮いており、余計に感じたので星はマイナス1。



Birdy / Fire Within (2013)
★★★★☆


The xxやBon Iverなど、インディーロックを中心とした選曲だった前作はピアノ弾き語りがメインで、他の楽器はあくまでBirdyの歌とピアノを引き立たせるためのささやかな装飾であり、そのバランス加減が非常に良かったのだけど、本作はよりオーソドックスなポップスの体(てい)をなすために各楽器が前面に押し出されている。よってより広い層に聴かれる音楽として進化したとは思うけど、イマイチ彼女の魅力が出しきれていないようにも思えた。

不安でもあった彼女のソングライティングは予想を超えるくらいに素晴らしかったけど、前作ほどに歌が響いてこないのはアレンジに因るものだろうと思われるし、それはGabrielle Aplinのデビュー作「English Rain」に感じたのと全く同じ。どうしても当ブログの年間ベストアルバム4位だったファーストと比べてしまうので、そういった雑念を取り払って数回聴いた時に本作の真価がわかるのかもしれない。



The Zombies / Odessey And Oracle (1968)
★★★★☆


初めて本作を聴いたのはもう15年近く前だけど、MD録音だったためここ10年ほど聴いていなかった。よって今回あらためて借り直し久しぶりに聴いた時には、こんなにもポップで清々しい音楽だったとは!と驚かされた。1曲目からハッピーなピアノが弾け、The Beach BoysやThe Whoを思わせるカラフルなコーラスワークが冴えわたっている。



Slow Beach / Lover Lover [CD-R盤] (2013)
★★★★☆
Slow Beach Lover Lover

7月の「初聴きディスクレポート」でも感想を書いたけど、その時は全6曲のフリーDL版で、今回は大阪のFLAKE RECORDSにて購入した全10曲のCD-R盤。最初の6曲だけでも「ビーチ」や「夏」をテーマに、トロピカル・ポップ、チルウェイヴ、サーフ・ポップ、さらにはオリジナル・ラヴ(「Motel」)なんて言葉が浮かんだけど、追加された4曲でさらに音楽的な拡がりを見せている。ビートルズの「With A Little Help From My Friends」と「Lucy In The Sky With Diamonds」のマッシュアップのような「Help Me! Help Me!」も、シンセの音が心地よい「Go Back」もとても良いけど、何より過去の幅広い音楽を参照しつつもそれが単なる模倣ではなく独自のセンスでほどよくブレンドされ、確固たるオリジナリティを打ち出せていると思う。



Grouplove / Spreading Rumours (2013)
★★★☆☆


前作から既にこのバンドの持つ多様性が遺憾なく発揮されてはいたけど、本作はそれをさらに押し進めたという印象。そのせいかどうにもとっ散らかっており、作品としてまとまりがなく感じる。前作のような哀愁を帯びたメロディーも後退しており、正直前作の方が断然いいと思う。しかしアレンジがどれも凝っていて、マスロックのようなギターフレーズが飛び出したり、エレクトロニクスの使用頻度が増えて音に広がりが出たりと技巧面での成長は目覚ましく、完成度としてはやたらと高い作品ではある。



Bis / The New Transistor Heroes (1997)
★★★☆☆


日本のアイドル(BiS)ではない方のBisは、90年代後半に日本でもそこそこ売れたグラスゴー出身の3人組。当時からラジオでは聴いていたけど、マライア、ホイットニー、ボーイズIIメン、SWVなんかが主流な中で彼らの「Kandy Pop」を聴いた時はかなり衝撃的だったのを覚えている。こんなヘタで素人みたいなのが何故ラジオから流れるのか理解できなかったものだ(当時はローファイとかインディーとかの概念も持っていなかったので)。

で、それから15年近くを経てあらためて聴くと、ニューウェーヴ、ディスコ、パンク、ローファイ・ガレージといった言葉が即座に浮かぶような、現在のインディーシーンとも共振することをごく自然にやっている。男女混声の破天荒ポップという流れで、確実に彼らの遺伝子はJohnny Foreigner、Sleeper Agent、Envelopes、Thomas Tantrumなどに受け継がれていると思う。



King Krule / 6 Feet Beneath The Moon (2013)
★★★☆☆


当ブログの「2013年下半期版・デビューアルバムが期待される10組」特集でも5位だったKing Krule。ブルージィな歌声とヒップホップetc.のビートを「ダブステップ以降」を感じさせる空気で包み込んだサウンドは古いようで新しい。しかし何が原因なのか自分でもはっきりとはわからないけど、漠然と「以前のEPやシングルの方が良かった」と思った。ただ、終盤の「Neptune Estate」以降は以前の曲と比べても遜色ないくらいに素晴らしかった。



MGMT / MGMT (2013)
★★★☆☆


非常に評価の難しい作品だと思う。サイケデリックな意匠を強め、非現実的な空間を想像させるようなサウンドにより、音楽作品・アート作品としてはかなり完成されていると言える。ただ、1st、2ndで提示してきたように彼らはポップバンドであり、どんなに小難しいことをやっても最終的には親しみやすいメロディーがそこにあったし、それこそが最大の魅力だったと思う。もちろん本作にも親しみやすいメロディーはあるものの、一聴した限りでは複雑な音に邪魔されてスッと入ってこなかった。各国のチャートアクションでも苦戦を強いられているようだけど、本作こそが現在の彼らがやりたかったサウンドなのだと納得するしかない。

前作が大好きだった自分としてはヘビロテするような作品ではなく、期待値の高さに応えてくれるほどのものではなかった。完成度の面で加点して星3つ。



The Cure / Seventeen Seconds (1980)
★★★☆☆


このアルバムを最初に聴いて感じたのはロバート・スミスの歌が極端に少ないということ。「暗黒三部作」と呼ばれる時期の作品だけあって、全体的にダークな曲調でまとめられた本作は、緊迫感を伴うミディアム~スロー・テンポな曲を中心にしつつ、「A Forest」や「Play For Today」といったアップテンポな曲はミニマルな展開の中で少しずつうねりが加わる形になっている。歌が少なくミニマルな展開をする様は、まるでテクノ・ミュージックのようでもある(誰からも同意されなそう)。



Chic / The Very Best of Chic (1996)
★★★☆☆


Daft Punkの「Random Access Memories」は間違いなく2013年を代表する作品であり、あの作品の方向性を決定づけたナイル・ロジャースが率いたバンド、Chicを再び参照することは自然な流れ。ベスト盤ということもあり、「RAM」よりもかなりアップリフティングで、ファンキーなベースがうねりまくりのかっこいいディスコ・ナンバーだらけ。それに加えてナイルの例のギターカッティング。これはいつかぜひ生で観たい。



Shellac / 1000 Hurts (2000)
★★★☆☆


ヒリヒリした緊迫感の伝わる硬質なギター音と、アルビニ印の例のドラム音。これだけでもう素晴らしい。リリース当時、友人から本作を勧められたものの聴かなかったのが本当に悔やまれる。先日ライブを観ることもできて本当によかった。



V.A. / Sunshine Blue V.A. (2013)
★★★☆☆
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既にレーベルコンピをいくつか出していて、毎回チェックしている日本のネットレーベルAno(t)raksの目下最新コンピ。全6曲と収録曲数は少ないもの、今年5月にリリースされた「broken record」も素晴らしかったホシナトオルをはじめ、Tourist & Soundtracksが特に良かった。
*「Sunshine Blue V.A.」ダウンロード(フリー)はこちらからできます。


Leonard Cohen / Various Positions (1984)
★★★☆☆


Jeff BuckleyによるカバーやEmmy The Greatによる引用でも馴染み深い「Hallelujah」が有名だけど、彼の他の曲はほとんど知らなかった。枯れた雰囲気のある哀愁バラードが多いというイメージを持っていたけど、聴いてみるとAORとまではいかないものの洗練されたポップスという印象。



V.A. / Tanukineiri Drink Sampler (2013)
★★☆☆☆
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「飲み物」をテーマにしたフリーコンピ。そのテーマもユニークだけど参加しているアーティストも実にユニークで、ギター・ポップ、アシッド・フォーク、エレクトロニカ、アヴァン・ポップなど幅広いスタイルをそれぞれが持ちつつ、そんなジャンル分けなど無意味なほど個性的かつ自由な実験精神に富んだアーティストばかり。一聴すると初期衝動のままに作られたような、宅録ならではのユルさがあるものも多いが、音楽への飽くなき探求心と一瞬のひらめきを重視するセンスには脱帽。以前このブログでもインタビューさせてもらったmay.eはもちろん良かったし、他にも後藤慎太郎、Boys Age、shoueno、guitarsisyo、tomoru inoue、hiroto kudoが特によかった。その反面、アヴァンギャルド過ぎてよくわからないものもいくつかあった。
*「Tanukineiri Drink Sampler」ダウンロード(フリー)はこちらからできます。





<番外>
初聴きではないけど、CDで買い直したのでメモ程度に。

Dizzy Joghurt / Inside Out Upside Down (1998)


ヒトミ&カナコ率いるギタポトリオのデビューアルバム。個人的には日本のアノラック・ギターポップ史に残る名盤だと思っている。Blondie「Sunday Girl」の秀逸カバーも含む全14曲、捨て曲なし。
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