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may.e - 私生活 (2013/11/30Release)

愛知県出身で現在22歳のシンガ―・ソングライター、may.e(メイ・イー)によるセカンドアルバム「私生活」がリリースされました。本作は僕にとって、2013年にリリースされた邦楽の中でも最優秀作として位置付けたいものだったので紹介したいと思います。珍しくレビューも書いてみました。

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may.e - "おちた生活 (Loose Life)" ※アルバム「私生活」収録



今年5月にリリースされたファースト・アルバム「Mattiola」から約7ヶ月という短いスパンでリリースされたセカンド・アルバム「私生活」は、全10曲収録でフリーダウンロード可能となっています。フィジカル盤にはボーナストラックとして「海へ」が追加収録されており、ライブ会場と通販(ともにソールドアウト)の他、12月7日からはココナッツディスク吉祥寺店にて販売されるとのこと。こちらもごく少数の販売らしいのでお早めに。


may.e 「私生活」は以下のBandcampからダウンロードできます。
「私生活」DL


なお、前作「Mattiola」もTanukineiri Recordsのサイトからフリーダウンロード可能。フィジカル盤は販売終了しています。

[TNR-008] Mattiola / May.e (Tanukineiri Recordsのサイトへ)

※現在はBandcampからDL可能:Mattiola / may.e




REVIEW: may.e / 私生活
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普段どんなに洋楽を聴いていようと、日本人の心にスッと入ってくる「日本特有の響きや節回し」というものがある。これは遺伝子的に刷り込まれているもので、普段から意識したり言語化することはなかなか容易ではない。しかしそういった音楽に触れた時に、人は無意識に懐かしさや親しみを感じてしまうものだ。

may.eの歌声は僕にとってまさにそういうものだった。音域は広く、曲によってファルセットのような高音だったり、あどけなさの残る呟きのような低音だったりする(その両方でハモることも多い)。どちらも透明感があって好きだ。特に高音の方は、さきほどファルセット『のような』と書いたけれども、高い方の声と低い方の声に境目がない(普通の人であれば裏声のキーで声質が明らかに変わるはず)ので、とても美しくスムーズに流れるように歌われている。彼女のヴォーカルは、「侘び/寂び」を感じさせるメロディーをなぞりながら、音を伸ばす部分でもビブラートすることなく──これはユーミンの歌唱と同じ特徴でもある──深いリヴァーブの中にスーッと消えていく。そんなところが、彼女の歌声に懐かしさや親しみを抱いてしまう要因なのではないだろうか。

もっとも、全曲日本語詞であることも要因として大きい。まるで小説を読んでいるかのような気分にさせる情感たっぷりの歌詞。絶妙な言葉のチョイス、メロディへの乗せ方、そして区切り方や繋がり方も独特で、全体の意味を把握するには難解な歌詞も多い。しかし逆にそれが、僕自身がいつも日本語詞の曲を聴くときに気になってしまうある種の「わかり過ぎてしまう気恥ずかしさ」を打ち消してくれている。may.eの歌詞はどれも、抽象的な言葉の断片のひとつひとつがさまざまな情景を想起させるような表現で綴られている。例えばこんな歌詞のように。

"透き通る身に針を落として 囁き歌う静かに
私を招く海の音は 夢を見た日に願っていた"

(「おいで」より引用)

全曲英語詞だった前作「Mattiola」は、本作とリリース時期が7ヶ月しか空いていないにもかかわらずだいぶ印象が異なる。どちらの作品もギター、ヴォーカルともに深いリヴァーブがかけられ、ドリーミーかつソフト・サイケなサウンドは共通している。しかし、「Mattiola」を覆っていたどこか陰鬱なムードは「私生活」では消え失せ、その瑞々しいメロディと歌詞により、まるで晴れ渡る空の下で光に満ちた光景が広がっているかのようだ。本作には、彼女が何度も呼びかける「あなた」の他に、光・花・水・風など自然に関するものが多く登場する。そう言えば、以前このブログにて行ったインタビューで、彼女はこんなことを語っている。

"1曲目の「Mattiola」から始まって、アルバム最後の8曲目「Asunomy」の心境に至るまでの一定期間に、区切りを感じたんです。「Mattiola」はかなり落ち込んでいた時期から脱しようとしていた時のことを歌っているんです。だから「外の世界を見に行こう」と言っていて(中略)"

つまり、「Mattiola」とは外に出ようと決意してから外に出るまでの心境の変化を綴ったものだということ。では、外に出てみたらそこにはどんな世界が見えたか?それが「あなた」と、光・花・水・風といった美しい風景であり、そんな外の世界で見たり触れたりしたものと、その時に感じた自身の想いが全体のテーマになっているのではないだろうか。両手いっぱいに摘まれた色とりどりの花が描かれた本作のアートワークからも、そんなことが窺える。パーソナルな日記的作品で内省的でもあった「Mattiola」と比べ、「私生活」もまたパーソナルではあるけれども、外に向けて作られたもの、もしくは外に向かおうとする「わたし」についての作品であり、それぞれに全く別の世界が見えているように感じる。

アルバムタイトルとなっている「私生活」とは、ラストに収められた「モユルイ」の歌詞の一節であるが、この曲は冒頭でこのように歌っている。

"散らかる部屋に黙って 寝そべるきしむ床の味"

しかし、最後はこんな歌詞で結ばれている。

"すぐにここへ来て
忘らるほどの私生活が
触れる脈のたぎりは
青い底に生まれた野草"


乱雑とした部屋から飛び出して外をみると、これまでの生活を忘れてしまうくらいに生き生きとした自然の息吹を感じた、そんな思いが込められているのではないだろうか。またインタビューする機会があれば、ぜひその辺りについて訊いてみたい。





<あとがき>
REVIEWでは、may.eの魅力として声やメロディや歌詞に焦点をあてましたが、彼女の最大の魅力は、未だ音楽性の全貌が見えない神秘性でもあります。よくいるようなアコギ弾き語り系のシンガーであれば、「だいたいこういう音楽をやる人」というのが予測できてしまうため、追い求める期間も短くなりがち(要は飽きる)。でもmay.eは、「Mattiola」と「私生活」という印象の異なる2枚のアルバムを作ったということ以上に奥が深く、それはSoundcloudにアップされている「ピーターパンはいないの」や「はじまりの合図」といったユルいラップ曲(どちらも名曲!)、宅録ローファイ・シンセポップな「kataomori」のデモ・バージョンの他、彼女が参加している氷河時代というアンビエントなアヴァンポップ・バンドの音源を聴けば誰もが納得すると思います。

先日「TOKIO通信」というイベントで彼女のライブ(ライブレポートは後日アップ予定)を観たのですが、オーディエンスに笑顔や視線を投げかけることもなければ不要なおしゃべりをすることもなく、ただひたむきに歌う姿がとてもストイックで好印象でした。しばらくライブの予定はない(もともとライブはほとんどやらない)そうだけど、またライブをやる機会があればぜひ観たいし、次の作品もどうなるのか(もしかしたら全編ラップアルバムかもしれない、そんな期待もしてしまう)非常に楽しみ。それまで「Mattiola」と「私生活」はきっと、飽きることなく長きにわたって僕の心を潤してくれることだろうと思います。

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