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映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(原題:God Help the Girl)

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スコットランドを拠点とする人気バンド、Belle and Sebastian。そのヴォーカリストでありフロントマンであるステュアート・マードックが監督・脚本を手掛けた映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(原題:God Help the Girl)を先日観てきました。とても面白い映画だったので感想など書きます(思いっきりネタバレありますのでここから先は自己責任でお願いします)





この映画は、俗っぽい見方をすれば「オシャレなミュージカル映画」。体裁としては多くの部分でミュージカルの方式が採られているし、登場人物の60年代風ファッションはどれもオシャレでかわいらしく見応えがある。

ただ、この映画がファッションに敏感な人たちや、ベルセバ好き・音楽好きの中でしか語られないとしたら、それはすごくもったいないことのように思う。

確かにこの映画は、ベルセバはもちろんネオアコ/ギターポップ、さらにはインディー・ポップ全般が好きであれば楽しめるシーンがたくさんある。まず映画の字幕に最初に現れる言葉からして「ニック・ドレイク」だし、ロディ・フレイムについて熱く語るシーンや、The Smithの『Meat Is Murder』のジャケが描かれたTシャツを着用するシーンがあったり。

でもこの映画でステュアートが最も伝えたかったことは、「夢を追うための方法はいくつもあって、どれも間違いではないし、人それぞれでいい」ということなのではないかと思った。

イヴ、ジェームズ、キャシーの3人は音楽によって出会う。互いに音楽が好きで、バンドを結成する。でも、最終的には一緒にバンドを続けていくことはしない。それは夢のために、自分のために、3人が異なる道を歩んだからだった。


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イヴは天性の音楽の才能はあるけど、大学でしっかりと音楽の基礎を学ぶことにする。これは単に音楽のためというよりも、自身の鬱病や拒食といった問題を克服するための精神的リハビリのためなのだと思う。それは彼女の「もっと外の世界が見たいの」というセリフにも強く表れている。ジェームズやキャシーとの出会いにより、外の世界から刺激を受けたこと。そして自分の音楽を他者に否定されたことの悔しさの中で、より自我を見つめ直すに至ったのではないだろうか。

対してジェームズは夢想家タイプ。たまにライブハウスで演奏しているアマチュア・ミュージシャンだけど、自信過剰というか他人を見下すタイプでもある。「この曲は最高の曲なんだ、ドラマーがもっと上手ければね」と言ってドラマーと取っ組み合いのケンカになったり、あのミュージシャンはダサいとか言ったりする。でも、多くの人に歌を聴いてもらいたいとか売れたいという欲はなく、自分のレコードが出せればいいと考えている。

上昇志向はなく、大学のプールの監視員という「人と会話することの極めて少ない」仕事をしている。自分の音楽を、ごく一部のセンスのいい人に認めてもらえばいい。そんな自己満足に徹するタイプでもある。ここがイヴと決定的に違うところだった。

キャシーは楽天的で自由奔放なタイプ。おそらく育ちもそれなりに良い。ただ少し頭が弱いようで、イヴとジェームズから出掛けようと誘われた時に、玄関からではなく窓から布を垂らして降りようとするシーンには笑ってしまった。しかしそんなお馬鹿キャラも愛くるしさがある。

自分のダメなところも自覚していて、彼女が「彼女(イヴ)のような魅力的な声ではないけれど」と歌うところがある。「この曲…私が歌っていいの?ライブでも演奏してくれる?」というセリフにも、自信のない様子が伺える。ただ、自信がないというよりはイヴの才能を心から信頼していて、そこに嫉妬心や虚栄心がない純朴な性格。男性1:女性2というシチュエーションにおいて珍しく、2人の女性は清々しいほどの友情を見せていて、そこが非常にほっこりするポイントでもある。ライブの最後にイヴと抱き合う姿も印象的だった。

***

この3人にはそれぞれ、上記に書いたような「欠点」と呼ぶべき部分がある。ただ、スチュアートは3人のいずれのキャラクターも、人生の歩み方も否定的に描いていない。その「欠点」によって3人は何も失敗していないし、むしろその「欠点」によって上手くいっている部分すらある。

だから、イヴが電車に乗ってロンドンへと旅立つシーンも悲しい別離のシーンではなく、これから新たな人生が始まることを示唆するとても前向きなシーンとして描かれている。電車の出発に間に合わなかったキャシーがたどたどしく自転車の向きを直すシーンからは、不器用ながらも過去に未練を残さず、気持ちを切り替えて新たな道を進む――そんな意思がうっすらと感じられた。

***

誰でも夢があるし、欠点もあるし、夢のために努力する人、夢を低く持ち安定を望む人、深いことはあまり考えずに人生を楽しみたい人、それぞれだと思う。ただ他者が自分の価値基準でその人を否定するべきではない。スチュアートがこの映画で伝えたかったのは、そういうことだったのではないだろうか。

イヴがラジオのDJに自分のデモテープを聴いてもらうためにコンタクトをとった、とあるバンドのイケメンヴォーカルは「今どきカセットテープかよ」と恥ずかしくなり、DJにテープを渡さなかった。イヴの音楽に関しても難癖を付けた。しかしそれを判断すべきは本来DJであって、彼ではないはず。しかもそんな彼は普段は洋服屋でバイトしているが、服装や髪形は店のマネキンそっくりである。無個性な人は他人の個性も尊重しないということの暗喩になっているところも、そんなスチュワートの意図が汲み取れる。


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最後に、個人的に好きなシーンをいくつか挙げていきたい。

●イヴがジェームズの大学のプールで泳ぐシーン
イヴが何度も体をひねりながらゆっくりと泳ぎ、横からカメラが追うシーンはこの映画で最も好きなカメラワーク。泳ぐ姿を眺めているジェームズの表情から心の高鳴りを感じ取ることができるし、この時に流れている音楽と映像が見事にマッチしている。


●カヤックで旅をするシーン
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特に何のトラブルも起きないのだけど、やはりこういう「小さな冒険」みたいなのは心が躍る。「トム・ソーヤーみたい!」とはしゃぐ姿に童心ものぞかせつつ、イングランド批判も織り交ぜる辺りはさすがスコティッシュのスチュアート。


●メンバー募集のビラを配って3人が街を走るシーン
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この映画の中で最もコメディー要素の強いシーン。

まず、ジェームズの走り方(笑)。ネオアコ少年のナヨナヨした「アンチ・マッチョイズム」の象徴なのだろうか。そしてメンバー志願者たちが3人を追いかけるシーンは、ビートルズの主演映画『ハード・デイズ・ナイト』のオマージュであるという見解もあるようだ(自分はこの映画を観ていないので何とも言えない)。公園でゴミ拾いをしていた女性がメンバー募集のチラシをゴミとして回収しつつ、その後ちゃっかりメンバーになっている点も芸が細かい。あと、途中で「サウンド・オブ・ミュージック」のオマージュみたいなシーンが一瞬だけあったような気がしたんだけど、偶然だろうか。


●ダンスパーティーのシーン
ジェームズがイヴを誘って向かった先にはバンドメンバーがいて、ソーシャル・ダンス・パーティのバックバンドをやっている。ジェームズが犬を使ってキャシーを呼ぶとかは完全にファンタジーの世界だけど、そこでアイスクリームを投げ捨てるキャシーや華麗なステップをキメるキャシーもかわいらしい。というかキャシーのキャラが全編にわたって最高。


●キャシーがライブの前にボウイのメイクを書いたり消したりしているシーン
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これはどのような心の葛藤なんだろうか?「しまった、私はイヴよりも目立っちゃいけないんだった」なのか、「いやいや、このバンドの音楽性でボウイはないよね…」なのか。その前にも3人がプールでボウイについて語るシーンがあったり、スチュアートにとってボウイがどんな存在なのか、いろいろと気になる。


●イヴがジェームズの家に「来ちゃった」するシーン
イヴ「なぜもっと早くキスしなかったの?」
ジェームズ「君が魅力的じゃなかったから」
イヴ「うそつき」
馬鹿!ジェームズの大馬鹿野郎!!まあ、このシーンでは『(500)日のサマー』や『モテキ』が辛すぎて見ていられない世の男性は全員、悶絶必至ですね。自分もそうです。



■映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』公式サイト



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