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UKロック回顧録1997-1998:「閉塞的な世界と対峙するための音楽」とは

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先日こんなツイートをしたところ、午前10時の気まぐれ思いつきツイートだったにもかかわらず意外にも多くの方からの反応をいただきました。





この「閉塞的な世界と対峙するための音楽」とは何か。


Twitterの文字数の制約上詳しいところまでは書けなかったし、「若い世代には本当の魅力はどうせわからないでしょ?」みたいな上から目線のニュアンスに受け取られかねないので、補足説明をする必要があるかなと思いまして。当時のイギリスの(広義の)ロック・シーンにおいて、ある種の共通したムードを感じていたのは確かですが、それを言語化するのはなかなか難しいため、具体的に作品を挙げつつ解説していけたらと思います。


まず始めに個人的な背景から話さなければいけないですね。1997年以前の僕は洋楽と言っても主にヨーロッパのダンス・ポップを聴いていて、ロックとは無縁でした。「ロック・バンドと言えば?」と訊かれたら、「Bon Jovi、Mr. Big、Van Halen」と答えていたでしょう(しかも、それらが特に好きというわけでもなかった)。


で、97年から友達の影響で洋楽ロックをいろいろと聴き始めたんですが、聴き始めたばかりの頃ってやっぱりどれも新鮮じゃないですか。世界が広がったり価値観がひっくり返されたり。でも自分のそんな状況を抜きにしても、この時期のUKロックには一種独特な雰囲気がありました。不条理なことや非現実的なことが起こり得るようになった現実社会。それに対して向き合ったり逃避したりしながら、陰鬱で重くるしく、ナンセンスで混沌としたムードが音楽にも投影されていたと思います。


その要因を自分なりに考えてみました。ワールドワイドな視点で見ると、その要因として大きいのは終末思想ではないでしょうか。当時、ノストラダムスの大予言で1999年7月に世界が滅亡するというものがありました。これにまつわるSFスペクタクル映画もたくさん作られたし、世界情勢を悪化させるニュースを目にしては「ああ、これがゆくゆくは予言通りの世界滅亡に繋がっていくんじゃないか」みたいに思えてしまう不穏な空気がありました。


一方イギリス国内で考えると、1997年8月26日のダイアナ妃事故死がイギリス全体にとても巨大な暗い影を落としたのではないかと察せられます。国全体が悲しみに包まれるなか陰謀論なども巻き起こり、何を信じたらよいのかわからない混沌としたムードが漂っていたはずで、この悲劇は間違いなく、この時代のUKロック・シーンに多大な影響を及ぼしたと言えるでしょう。


その頃イギリスのバンド・シーンはどうなっていたか。90年代初頭~半ばに活況を呈していたブリット・ポップがこの頃にはブーム終焉になり、多くのバンドが今後の方向性を懸命に模索していたはず。その結果、いくつかのバンドが目を向けたのはテクノ、ダブ、ブレイクビーツ、ドラムンベース、トリップホップ、ヒップホップといったエレクトロニック/ダンス/クラブ・ミュージックでした。「ロックとダンスの融合」なんてものはThe Stone Rosesによってとっくに発明されていたんですが(そもそも先述のツイートは「見る前に飛べ踊れ」というまとめブログの記事「ストーン・ローゼズって何が凄いの?」の内容を受けてのものでした)、この時はロックの側からも、ダンスの側からも双方に歩み寄ったコラボが数多く見受けられました。


ただ、基本的に元々これらのジャンルって曲調が重くて暗いんですよね。トリップホップなんて暗いことがアイデンティティにもなっているし。そしてそれらをロックバンドが取り込んだ結果、ロックバンドも重く暗い曲調になっていったのはある意味必然でした。やがては「終末思想」や「ダイアナ妃の悲劇」によって、歌詞やミュージック・ビデオにおいても殺伐として混沌をはらんだ、いわゆる「世紀末感」が表出されるようになっていったのではないかと思います。


ところがちょうどその頃イギリスではSpice Girlsみたいな音楽が売れてて、それに対して「能天気に騒いでないで、もっと現実を直視しろよ。ほら、このクソみたいな世界が現実だ!」という共通思想が、カウンターカルチャーとして形成されていったのではないでしょうか。「この世界はヤバイ、地球環境も地域紛争もカルチャーも破滅に向かってる!」みたいな焦燥感と閉塞感の中で、世の不条理とまっすぐ向き合いつつも、なんとか新しい音楽を生み出そうともがき苦しみながらアートに落とし込んだのが、これから紹介するこの時代のイギリスを代表する作品たちなのではないかと。つまりそれが、僕の言いたかった「閉塞的な世界と対峙するための音楽」ということです。


それでは、97年から98年までにリリースされた、そんな時代の名盤を振り返ってみたいと思います。この時代に洋楽ロックの第一歩を踏み入れた僕にとって、どれも深い思い入れのある作品ばかりです。





Oasis / Be Here Now (1997)


ノエル自ら「ファッキンうるさくて、ファッキン長い」と否定的に評するアルバム。みるみるうちに巨大化していったバンドに対して「俺は世界一のロックンロール・スターで、俺らは世界一のバンド。ロールス・ロイスだってプールに沈めちゃうぜ」と息巻いて、それに見合うべく「過剰さ」を追求した結果、幾重にも重ねられたディストーション・ギターのウォール・オブ・サウンドとズッシリしたビートによる重厚なアルバムが完成。ダイアナ妃事故死の5日前に発売された。

Oasis - "D'You Know What I Mean?"




Radiohead / Ok Computer (1997)


退廃感や終末観を、パンク・ロックではなくアート・ロックに落とし込んだ最初の作品と言えるのでは?ジメジメしたギターロック・バンドが、無謀にもプログレッシヴな展開を見せる鬱曲「Paranoid Android」をよりにもよって先行シングルとしてリリース。シュールかつナンセンスなミュージック・ビデオも衝撃的だった。まるで隔離され無菌状態のモラトリアム施設の中から、崩壊していく外界を俯瞰しつつ平和だった遠い日々のことを回想している、そんなディストピア小説のようなシニカルでメランコリック、かつ不条理さを感じさせるアルバム。

Radiohead - "Paranoid Android"




Primal Scream / Vanishing Point (1997)


『Vanishing Point』は、『俺たちに明日はない』や『イージー・ライダー』と同じくアメリカン・ニューシネマに分類される映画のタイトル。その映画から題材を取り、劇中のセリフをサンプリングしたり主人公の名前を曲名にしたドラッギーかつパンクな作品。新加入のマニ(The Stone Roses)による重いベースがフィーチャーされ、各所にダブ・エフェクトが施された、個人的に彼らの最高傑作。本作をエイドリアン・シャーウッドが丸ごとダブ・リミックスした『Echo Dek』と併せて聴きたい。

Primal Scream - "Kowalski"




The Verve / Urban Hymns (1997)


Oasisがかつて「影さえ失ったアイツ("Cast No Shadow")」と歌ったリチャード・アシュクロフト率いるバンド。一度解散したのちの復活作はまさに「都市の讃美歌(Urban Hymns)」の名にふさわしく、美しいバラードとサイケ・グルーヴによる混沌とした作品となっている。リチャードが街ゆく人々にぶつかりながらも闊歩するミュージック・ビデオはあまりに有名。そしてこの後、バンドは再び崩壊。今となっては生み出されたことが奇跡とも思えるアルバム。

The Verve - "Bitter Sweet Symphony"




Portishead / Portishead (1997)


トリップホップと言えばこのバンド。初めて聴いた時、あまりの暗さとオドロオドロしさに怯えつつも即座にハマった。フィルム・ノワールとヒッチコック的世界観が融合したサウンドとキレッキレのドープなヒップホップ・ビート、そしてときには美しく、ときには神経質なベス・ギボンズの唯一無二のヴォーカル。翌年リリースの『Roseland NYC Live』はオールタイムのマイ・ベスト・ライブ盤でもある。

Portishead - "Cowboys"




The Chemical Brothers / Dig Your Own Hole (1997)


あのU2までもが取り入れるほど世界を席巻していたビッグ・ビート(文字通り、大きくスティックを振り回しながら生ドラムを叩いているような豪快な打ち込みビート)の火付け役による2作目。Oasisのノエル・ギャラガーをフィーチャーした「Setting Sun」に顕著なように、ロックのダイナミズムに貫かれた作品。終盤にはBeth Ortonをフィーチャーした「Where Do I Begin」と9分を超える「The Private Psychedelic Reel」が配され、サイケデリックな様相を呈して締めくくられる展開も圧巻。

The Chemical Brothers - "Setting Sun"




The Prodigy / The Fat of the Land (1997)


ケミカルの名前を出したら彼らにも触れないわけにいかない。全世界で1,000万枚以上を売り上げ、この年にはダンス・アクトとして初のグラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーにも抜擢された。「Smack My Bitch Up」のミュージック・ビデオはクラブ・カルチャーの猥雑性とセックス、ドラッグ&ロックンロールを体現した名作がゆえ放送禁止にもなった。

The Prodigy - "Smack My Bitch Up"




Aphex Twin / Come To Daddy EP (1997)


8曲入りのEPながら、スラッシュ・メタルとパンクとブレイクビーツをぶち込んだカオティックな表題曲をはじめ、ジャズバンドのThe Bad Plusもカバーした美しいピアノ・ブレイクビーツ「Flim」、硬質のボールが弾むさまをビートに転化した「Bucephalus Bouncing Ball」など名曲を多数収録。荒廃したマンションでリチャード化した子供たちが暴れ回るミュージック・ビデオは人々に恐怖と失笑をもたらした。

Aphex Twin - "Come To Daddy"




Massive Attack / Mezzanine (1998)


90年代のイギリスのクラブ・カルチャーにおいて最もアツかったブリストル発の3人組(当時)。漆黒の重いグルーヴとロックのダイナミズムとメランコリックなメロディをたずさえ、さらにはCocteau Twinsのエリザベス・フレイザーをフィーチャーした名曲「Teardrop」も収録された名盤。「冒頭3曲が最高なアルバム」といえば?90年代だったら、Weezer『Pinkerton』、JSBX『Now I Got Worry』、そして本作を挙げたい。ジャケも素敵。

Massive Attack - "Risingson"




Goldie / Saturnz Return (1998)


金歯で有名、そしてビョークと婚約(のちに破棄)したことでも有名なGoldieによる2枚組アルバム。そのうち「Mother」は60分を超える大曲である。当時のUKドラムンベース・シーンはとにかく隆盛を極めていて、4 Hero、Grooverider、LTJ Bukem、Photek、Roni Sizeとたくさんのアーティストが活躍していた中でも異端な存在であったと思う。そしてここでもOasisのノエルが登場、変拍子ビートにヘタクソな歌をわめき散らす「Temper Temper」は、曲もミュージック・ビデオに登場する本人も狂気を感じる。

Goldie - "Temper Temper"




Six. By Seven / The Things We Make (1998)


Gomez(98年デビュー)やThe Beta Band(97年デビュー)、Medal(98年デビュー)と並び、若手サイケ・ロック・バンドとして登場。RadioheadはPortisheadのファースト『Dummy』を聴いたとき「やりたいことを先にやられてしまった…」と思ったそうだけど、実際にバンドでPortishead風にやってみたのが彼ら。が、このバンドはそれだけでなく、マッドチェスターのグルーヴや、アメリカのThe Flaming LipsやMercury Revといったサイケ&爆裂ノイズなオルタナ・バンドからの影響を受けて独自の方向性を見出した。

Six. By Seven - "European Me"






以上10作品でした。さて、少し趣旨から外れますが、本稿を語る上で外せないものが他にも3つあります。




1つはイギリス映画『Trainspotting』のサントラ。96年のリリースなので外しましたが、Blur、Elastica、Sleeper、Pulpといったブリット・ポップのバンドからLeftfieldやUnderworldといったクラブ・ミュージックをミックスしている辺り、この時代のロックとダンスのクロスオーバーの指南書とも言えると思います。




2つめはBjörkの97年作『Homogenic』。UKではなくアイスランドのアーティストなので上記からは外しましたが、唯一無二の歌声と常識から逸脱したビート、重厚なストリングスの組み合わせは圧巻で、この時期の最重要アルバムだと思っています。

chriscunningham.jpg

3つめはChris Cunningham。先ほどのAphex Twin「Come To Daddy」の他、BjörkやLeftfieldなどのミュージック・ビデオを手掛けたイギリスの映像作家ですが、彼の手がけた作品に描かれたグロテスクで不条理な世界こそが、僕が感じていた閉塞感や混沌といった要素を如実に表しているのではないでしょうか。





最後に、97年当時のマイ年間ベストアルバムです。

No.1 Björk / Homogenic
No.2 Primal Scream / Vanishing Point
No.3 Radiohead / Ok Computer
No.4 The Verve / Urban Hymns
No.5 Portishead / Portishead
No.6 Oasis / Be Here Now
No.7 Squarepusher / Hard Normal Daddy
No.8 The Chemical Brothers / Dig Your Own Hole
No.9 Prodigy / The Fat of the Land
No.10 Blur / Blur

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