フリートーク

アメリカン・アイドル終了によせて、その魅力を振り返る

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いきなりものすごく個人的な話になるけど、僕はテレビをほとんど観ない。いや、正確に言うと、家では結構な時間テレビが点いている。でもBGMのような感じで「点けっぱなしにしている」状態で、注意深く視聴はしていない。

そんな「テレビをほとんど観ない」僕だけど、放送を毎回楽しみにしている番組が一つだけある。というか、あった。それはCSのFOXチャンネルで放送されていたアメリカのオーディション番組「アメリカン・アイドル」だ。今年15年目を迎えたこの番組は、つい先日その歴史に幕を下ろしたのだった。

今回はこの機会に、「アメリカン・アイドル」について少し語りたいと思う。





■アメリカン・アイドルとは
放送を観たことがなくても番組の存在自体は知っている人も多いとは思うけど、念のためここでさらっと説明しておきたい。

アメリカン・アイドル(以下アメアイ)は2002年にアメリカで放送が開始された、ざっくり言うと「歌のオーディション番組」。放送期間は1年のうち4ヶ月~半年ほどで、各シーズンの始めの方は全米各地での地方予選がオンエアされる。参加者は一人ずつ歌を歌い、審査員がその場でハリウッド本選の合否を言い渡す。地方予選が終わると合格者たちはハリウッドに集まり、合宿生活のような感じで練習に励むのだが、グループ審査や徹夜のレッスンなどキツイ試練を経てさらに候補者が絞り込まれる。年によって流れは多少異なるけど、最終的には12名ほどまで絞り込まれたところで視聴者投票による審査が生放送で行われ、毎回1人ずつ最下位が脱落していく。

全盛期には決勝戦の投票数が1億票を超えるという驚異的な記録も残している人気番組で、日本では字幕版がFOXチャンネルにて数週間遅れで放送されている。



■アメアイの魅力とは何なのか
僕がアメアイを観始めたのはシーズン7の途中からだったけど、めちゃくちゃハマってしまい、以降は録画に失敗しない限りは地方予選含む全ての回を観ている。

8年と少しアメアイを観てきて感じたのは、アメリカがエンタテインメント大国であり、音楽というものが文化や生活習慣の中にしっかりと根付いていて、それによって才能豊かなシンガーを数多く生み出している、ということ。そして何といっても「アメリカン・ドリーム」というものがリアルな概念として若者たちの心の中に存在していることだ。参加者は皆、マイケル・ジャクソンやマドンナを生んだこの国でポップ・カルチャーやショービジネスの世界に憧れ、偉大な先達に敬意を示しながらその背中を追いかけている。もちろん、この番組が生んだスター、ケリー・クラークソンやアダム・ランバートも誰もが憧れる存在である。

たくさんのオーディション参加者(=素人)が、番組を通して潜在的な才能を開花させ、歌唱力はもちろん見た目もパフォーマンスも洗練されていくさまを目の当たりにして毎回とても感動したし、あらためて「アメリカすげえ…これは日本はどう考えても(エンタメやポップ・ミュージックにおいて)勝てないわ…」と畏れおののいたものだった。

最終的に優勝者が決まるまでに毎回誰かが脱落しそれぞれのドラマが生まれるが、ドラマはそれだけではない。優勝してもその後全く売れずに忘れ去られていく者がいる一方で、アダム・ランバートのように優勝者ではなくてもQueenのヴォーカルとしてサマソニでヘッドライナーを務めるなど世界的な活躍を見せたり、ジェニファー・ハドソンのようにアカデミー賞の助演女優賞やグラミー最優秀R&Bアルバム賞を受賞したりする者もいる。その明暗はテレビ番組の中でなく、実際に「今、ここ」で現在進行形で起こっているドラマだ。

ドラマは、その起承転結の連続性によって面白みが生まれる。だから多分、放送を一回観ただけだったり、僕がこの記事に後で貼るパフォーマンス動画を観ても多くの人は「へぇ」としか思わないだろう。ただの音楽番組だったら一つの放送回を観ただけで十分楽しめる。でもアメアイは「リアリティ番組」でもあるから、視聴者はそれぞれの出演者に感情移入し、成長を目の当たりにし、応援し、優勝者や脱落者の喜怒哀楽を共有する。これがこの番組最大の「面白さ」だと思う。

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何かとネタにされる、売れなかったシーズン8優勝者クリス・アレン(右)と人気者になった準優勝者アダム・ランバート(左)



■日本における「アメアイ」
残念ながらアメアイの優勝者は、なかなか日本では認知されにくい傾向にある。先述のアダム・ランバートや初代優勝者ケリー・クラークソン辺りはまだ有名だけど、ドートリーやキャリー・アンダーウッド、ファンテイジアらの日本での知名度はアメリカのそれに比べたら全然低い(ドートリーは2014年にキャパ1,000人規模の恵比寿リキッドルームで初来日公演を行った)。ましてやクリス・アレン、ケイレブ・ジョンソン、スコッティ・マクリアリー、キャンディス・グローヴァーなどは、ここ最近の優勝者でありながら日本での知名度はほとんど皆無に等しい。FOXチャンネルでアメアイを観ていた人以外には全く知られていないと思う。

とは言っても、カントリーやブルース・ロック系はもともと比較的日本人ウケが悪いジャンルだから仕方ない。やはり日本でもそれなりの人気と知名度を得るには、アダム・ランバートのような「わかりやすさ」やスター性が不可欠なのだと思う。

そもそも、「アメリカン・アイドル」というタイトルのせいか日本ではティーン向けのアイドル発掘番組のように思われがちなのではという気がしなくもない。ここでいう「アイドル」とは、AKBやももクロのような日本における一般的な意味での「アイドル」ではないことは誰もがわかりきっているにしても、ワン・ダイレクションやかつてのジャスティン・ビーバー、ブリトニー・スピアーズのようなティーンにキャーキャー言われる存在でもない。老若男女幅広い層が観ているというだけあって、勝ち進む候補者は玄人も唸らせる「実力派のシンガー/パフォーマー」的な側面が強い人ばかりだ。特に近年はアメリカの音楽シーンを反映するかのようにインディーロック系の参加者が増えたことで、そういったリスナーにも十分に楽しめる内容になっていた。

オーディションの参加条件は15歳から28歳までということで、番組には当然15歳の参加者がたくさん登場する。でも、いわゆる歌手を目指す日本の15歳とは全くベクトルが異なることにまず驚かされる。これは別に日本のティーンのレベルが低いと言いたいわけではなく、番組側の目的意識からして違うように感じた。もし日本に「アイドル」というワードを冠した歌のオーディション番組があって15歳の女の子が参加したとしたら、求められるものは間違いなく「かわいさ」と「男性ファンを獲得できるか」だろうし、場合によっては○枚売れなかったら解散・引退、チャート1位獲れなかったら…のように「ゲーム化」「商品化」されてしまうだろう。



■お気に入りだった参加者たち
アメリカにおける「アイドル」とは、文字通り「憧れられる人=ポップ・スター」であり、「エンターテイナー」である。そして求められるものは、性別や年齢を問わずにファンを獲得できること。ティーンエイジャーであろうと、審査を勝ち進んでいく参加者たちは皆一様に自己プロデュース能力が高く、自身の進むべき姿がしっかりと見えている。大人たちのいいなりとして利用される姿ではなく。

以下に挙げるのは、いずれも今シーズンと前シーズンの中で特に応援していた当時15歳の参加者たちだ。


Jaq Mackenzie [SEASON 14]

地方予選の初登場時の姿。15歳にしてこのクールさ。
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こちらは最近の様子。17歳になったかならないか。
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Jaq Mackenzie - "Wish Man (Trevor Hall Cover)"



The Cureなんかもカバーしている。

Jaq Mackenzie - "Pictures of You (The Cure Cover)"




Tristan McIntosh [SEASON 15]

地方予選の初登場時。あどけなさも少し残るものの、髪型もキマっててかっこいい。
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15歳ながら、アリシア・キーズを思わせる繊細で力強いパフォーマンス。このレベルでも審査員からダメ出し食らうし優勝できないのだからアメリカは恐ろしい。

Tristan McIntosh - "Go Rest High On That Mountain (Vince Gill Cover)"




この2名だけでも、いわゆる日本における「15歳のシンガー」のイメージとはかけ離れていることが分かると思う。あと、スーザン・ボイルを生んだイギリスの『ブリテンズ・ガット・タレント』とも番組趣旨は結構異なる。アメアイは本格的な音楽番組でありながら、その功績や出身者が日本の音楽メディアでも取り上げられることが少ないのはちょっと不思議な気もする。



以下は15歳ではないけど、ここ最近のシーズンで特にお気に入りだった人たち。

Joey Cook [SEASON 14]

毎回カラフルなヘアで登場し、ジプシー音楽やジャズなどのアレンジ能力が素晴らしかったジョーイ・クック。フジロックのカフェ・ド・パリとかに出たら最高に合いそう。

Joey Cook - "Fancy (Iggy Azalea feat. Charli XCX Cover)"


地方予選の初登場時からアコーディオン担いで印象的だった彼女。しかも選んだ曲がThe Tallest Man on Earthの「King of Spain」というセンス。





Jenn Blosil [SEASON 15]

プラチナブロンドのモジャモジャヘア、大きな瞳、ハスキーな歌声、個性的なファッションやメイクでスター性の高かったジェン。わりと早くに脱落してしまったけど…。

中でもこのパフォーマンスが最も印象的だった。彼女の声にピッタリなチョイス。そしてキラキラの眉毛。

Jenn Blosil - "True Colors (Cyndi Lauper Cover)"


こちらは地方予選の初登場時。Imagine Dragonsの「Radioactive」を選曲。





Olivia Rox [SEASON 15]

テイラー・スウィフトばりの高身長とスタイルの良さを持つ17歳。歌もめちゃくちゃパワフルだし、笑顔を絶やさない天真爛漫タイプでかわいらしくてかっこいい。名前もかっこいいし。

Olivia Rox - "Confident (Demi Lovato Cover)"




Tyanna Jones [SEASON 14]

ソウルフルな歌声が魅力のティアナ。審査ではジャネール・モネイとかも選曲していた。

Tyanna Jones - "Wings (Little Mix Cover)"




Angie Miller [SEASON 12]

アメアイはカバー曲でそのアレンジ力・表現力で勝負する人がほとんどだけど、自作オリジナル曲で審査に挑んだのがシーズン12のアンジー・ミラー。クオリティ高すぎ…。

Angie Miller - "You Set Me Free"




MacKenzie Bourg [SEASON 15]

オリジナル曲といえば今シーズンのこの人も良かった。エド・シーランっぽさもあって売れそうだし、優勝すると予測していたんだけど、TOP4で脱落。

MacKenzie Bourg - "Roses"


マイケル・ジャクソンのカバーも良かった。

MacKenzie Bourg - "Billie Jean (Michael Jackson Cover)"




Casey James [SEASON 9]

男性をもう一人。深みのあるソウルフルな歌声。そして笑顔のまぶしい超イケメン。

Casey James - "Heaven (Bryan Adams Cover)"




番組でこうして圧倒的なパフォーマンスの数々を観ていると、ついつい彼らが素人であることを忘れてしまう。ハリウッド本選では番組専属バックバンドの功績も大きいとはいえ、基本的には選曲からアレンジの方向性などは本人の意思によって決まるので、彼らはすでにこの時点でアーティストとしての自身の方向性をほぼ確立しているのだからすごい。

それにしてもアメリカ、こんな人たちがゴロゴロいて本当に圧倒される。若くても実力のある人がたくさんいるのは、やはり生まれ育つ環境によるものが大きいと思う。アトランタやナッシュヴィル生まれなら幼い頃からカントリーが染みついている人も多いし、ニューオーリンズならジャズだったり。あとやっぱりキリスト教が身近な国なので、子供の頃に聖歌隊にいたとか、そういう経験も関連している。



■エンターテインメントとしての要素
アメアイは歌のオーディション番組でありリアリティ番組だけど、バラエティ番組としても十分に楽しめる。毎回行われるグループ審査ではその場で4、5人のグループを組まされるのだけど、初対面同士・ライバル同士でそう簡単にうまくいくはずもなくガチバトルが勃発することもしばしばで、それがまた面白かったり。

また、審査員が魅力的なのも重要な要素の一つ。キース・アーバンとハリー・コニックJr.のジョークだらけの掛け合いや寸劇はいつも面白かったし、ここ数年審査員を務めたジェニファー・ロペスは回ごとにメイクやヘアスタイル、ファッションが変わり、いずれもとにかく美しかった。番組が終わって、J.Loが定期的に見られなくなることが本当にツライ。

Jennifer Lopez Performs "I Ain't Your Mama" and "Let's Get Loud"
ファイナルでの圧倒的なパフォーマンス。46歳にしてこの美貌、そしてこのキレッキレのダンス。最後は高速Twerk!




エンタテインメントの国なので、オーディション参加者には元・審査員のこんな人や…





こんな人も登場。「歌手だけどラップにも挑戦したい」という自己紹介には笑ったし、放送禁止用語連発。そして審査の行方を心配そうに見守るカーダシアン。





■アメアイが自分にもたらしたもの
この番組を観始めてから僕はアメリカという国、そしてアメリカン・カルチャー(特にアメリカのポップ・カルチャー)が大好きになった。USチャートやコーチェラのラインナップを見ても明らかだけど、近年はメインストリームとインディーの境界がとても曖昧になってきており、その影響はアメアイの参加者や上位に残る人にも顕著にあらわれている。象徴的な出来事としてはシーズン11の優勝者、フィリップ・フィリップスが「番組初のインディーロック系の優勝者」と称されたりしていた(そういえば去年、フジロックから東京に帰ってきたその日にショーケースライブに行ったな…)。

決勝時のパフォーマンス、後に彼のデビュー曲となる「Home」の曲の良さもさることながら、タイコ隊が登場する演出がとても良くて感動的だった。

Phillip Phillips - "Home"




番組が僕にもたらしたもの…、あとは、めちゃくちゃ音程にうるさくなった。観始めて最初の頃は「歌うまいな~」と思った後に審査員が「音程がズレている」と指摘して「えっ!?うまかったのに!」と思うことも多かったけど、今では微妙なズレとかでもすっかり「あ、今音程外したな」とかわかるようになった。というかめちゃくちゃ気になるようになった。でも自分がカラオケするときの音程はちっともよくならないんだよな、不思議なことに。
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