初聴きディスクレポート

初聴きディスクレポート Vol.86(2016年8月)

2016年8月に初聴きした作品のディスクレポートです。



★★★★★ 年間ベスト20位以内クラス*
★★★★☆ すばらしい
★★★☆☆ 標準レベルの良作
★★☆☆☆ 気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆ 期待ハズレ
☆☆☆☆☆ 全然ダメでした

*今年リリースでない場合、旧譜のみの年間ベスト20位以内クラス




8月のALBUM OF THE MONTHは…


■ALBUM OF THE MONTH■
LUH / Spiritual Songs for Lovers to Sing (2016)
★★★★★
LUH Spiritual Songs for Lovers to Sing

Lost Under Heaven=LUH。たった一枚のアルバムを残し"この世を去った"(人ではなくバンドながら、この表現が最もしっくりくる)WU LYFのEllery James Robertsが、恋人のEbony Hoornとともにスタートさせたプロジェクトのデビュー作。プロデュースはBjörk『Vulnicura』やHEALTH『Death Magic』でも名を上げたThe Haxan Cloak。

恋人同士であるがゆえ、この二人による作品はこれが最後となる可能性もなくはない。でも、それでも構わない。おそらくこのサウンドは、この二人がこの刹那にしか奏でることのできないものだと思うからだ。WU LYFですら、一枚しか作品を残さなかったことは正解だったと思っている。一度聴いたら二度と忘れられない、粗野ながら温もりを感じさせるElleryの声は、そのアクの強さがゆえに同じようなサウンドでいくつかの作品を作ることを自ら拒んでいるかのように感じられる。

ここで鳴らされているのはロック・バンドの演奏ではなく、シンセを主体としたエレクトロニックな音。でも、所謂エレクトロ・ポップやダンス・ミュージックではない。まるで掟を破ってまで結ばれた二人が、神に祈りを捧げながら贖罪の日々を過ごす時のサウンド・トラックのように、神秘的で、悦びと悲哀に満ちている。本作のタイトルは『Spiritual Songs for Lovers to Sing (=恋人たちが歌うための崇高な歌)』。これほどストレートで的を射たタイトルがあるだろうか。

本作におけるベスト・トラックは5曲目「$ORO」だろう。この曲までは前述のように神秘的な曲が続くが、この曲はオートチューンを駆使したコズミックなダブステップで、後半には90年代ロッテルダム・シーンを彷彿させるガバ・ビートへと展開する。この意表を突く組み合わせはとてもユニークだし、おそらく本人はジョークや皮肉のつもりで取り入れたものだろう。でもリアルタイムでロッテルダム・テクノにハマっていた身としては、単純に「面白い」だけでは片付けられないほどの魅力がある。

LUH - "$ORO"




Puro Instinct / Autodrama (2016)
★★★★★
Puro Instinct Autodrama

ローファイ・サイケ・ポップを奏でる姉妹デュオの2nd。2011年のデビュー作『Headbangers In Ecstasy』はまるで「酩酊状態のStrawberry Switchblade」とでも形容できそうな、ソフィア・コッポラ的ガーリー・センスとアリエル・ピンクの陶酔的センスを融合させたドリーミーかつファジーなサウンドが特徴だったが、本作では80年代のマドンナあたりを彷彿させるエレポップ要素が強まり、ビートをはじめ全体的に輪郭のハッキリした作風となっている。

前作のアートワークは、シルクのシーツに横たわる二人がウサギを抱え、すりガラス越しのようにぼやけたポートレートだった。しかし本作では真っ赤なリップに黒を基調とした衣装で二人が着飾っている。アートワークに写された二人の姿の変化は、サウンドの変化を如実に捉えていると思う。「ゆるふわ」「不思議ちゃん」なイメージから脱却し、セクシーでグリッターでグラマラスなビジュアルとともに、力強いポップへと見事な成長を遂げている。

Puro Instinct - "Tell Me"




Let's Eat Grandma / I, Gemini (2016)
★★★★★
Lets Eat Grandma I, Gemini

ともに17歳の女の子2人組のデビューアルバム。声を聴く限りでは10歳くらいなのでは?と思うほどに舌っ足らずな声だが、そのノーティな感じやあどけない歌声がなんともクセになる。そしてユルい。ヴォーカルのピッチやビートのズレも何のその、YouTuberによる「歌ってみた」「ラップしてみた」「曲作ってみた」の延長みたいな自由奔放さがある。

サウンドはドリーミーでサイケでローファイ。拙いBeach House、もしくは電子的なMoldy Peachesと言ったところか。これまでどんな音楽遍歴を辿ってきたのかが大いに気になるところだが、彼女たちはむしろ幼いからこそ固定観念に捉われることなく、テイラー・スウィフトもBeach Houseも民族音楽も並列に聴いてきたのではないだろうか。突然ラップが飛び出してくるところはメインストリームからの影響も感じさせるし、そんな中にも端々にビョークやThe Knifeを思わせるシャーマニックな要素もあるのが面白い。

Let's Eat Grandma - "Eat Shiitake Mushrooms"




Minor Victories / Minor Victories (2016)
★★★★☆
Minor Victories Minor Victories

SlowdiveのRachel Goswell、MogwaiのStuart Braithwaite、EditorsのJustin Lockeyらによって結成されたスーパーグループのデビューアルバム。いずれも好きなバンドなだけに密かに期待を寄せていた。

轟音ギターや透明感のある女性ヴォーカル、退廃的なムード、無機質なハンマービート。それぞれのバンドの好きな要素を掛け合せたらこうなるんだろうなーという、まさにその期待通りの音。各バンドから持ち寄ったエレメンツが互いを打ち消し合うようなことはなく、相性よく混ざり合っている。その反面、意外性がないというか、もう少し驚きの要素となるプラスαがあれば完璧だったかもしれない。



Nav Katze / うわのそら (1994)
★★★★☆
Nav Katze うわのそら

本作収録の「ジギー」と「チェンジ」をAphex Twinがリミックス(いずれもリミックス集『26 Mixes for Cash』に収録)したことでも知られる日本のガールズ・バンドの7作目。SOFT BALLETの遠藤遼一やLUNA SEAのINORANが参加している。

サイケ、ギターロック、ローファイ、ブレイクビーツといった要素が断片的に当てはまるのだけど、そのいずれも片足の親指程度しか突っ込んでおらず、他に比較するものが思い浮かばないくらい個性的で、掴みどころがないのにとてつもなくポップという類まれなバンド。アートワークから感じ取れるイメージ━━無機質でチープでファニーでカラフルで不思議━━をそのまま投影させたような音楽。



David Bowie / Young Americans (1975)
★★★★☆
David Bowie Young Americans

カヴァー・アルバム『Pin Ups』を除くオリジナル8作目。これまでの作品のジャケで見られたような、グラマラスだったり地球人離れしたような衣装から一転、GAPで売ってそうなタッタソール・チェックのシャツ姿だ。

全体的にブルーアイド・ソウルをベースにしており、パーカッションやドラムの音の柔らかさなどから80年代の日本のシティ・ポップとの近似を語ることもできそう。The Beatles「Across the Universe」のカヴァーが収録されているがこれもなかなか秀逸で、原曲のメロディの美しさを壊すことなくファンクやソウル、ロックンロールのフィーリングを醸し出している。出だしで音程を外しまくりだが、それでもサマになってしまうのがボウイ歌唱のすごいところ。



David Bowie / Station To Station (1976)
★★★★☆
David Bowie Station To Station

先述の『Young Americans』に続く9作目。収録曲数や冒頭曲の尺の近さなどから、遺作となった2016年『★』と比較されることも多い。前作『Young Americans』の延長であるブルーアイド・ソウルの影響が強いが、次のアルバムでありベルリン三部作の一作目である『Low』の片鱗も感じさせる。



ゆらゆら帝国 / 空洞です (2007)
★★★★☆
ゆらゆら帝国 空洞です

2003年頃までは作品を追っていたバンドのラスト作。解散の理由は本作で"過去最高に充実した状態、完成度にあると感じ"、"この3人でしか表現できない演奏と世界観に到達した"ためと語られている。

ミュージシャンとしてその次元まで達するというのはすごいことだ。そして何より、そこに至るまでの過程で彼らは「継ぎ足し」をしていったのではなく「そぎ落とし」をしてきたということがとても重要だと思う。

聴く人によっては、本作は「完成されてもなく、洗練されてもいない」と感じるかもしれない。実際に自分もそう思った。しかし、ひたすらに肉をそぎ落とし、感情をそぎ落とし、色彩をなくしたその先にあるもの。"無の境地"という言葉があるけど、本人たちにとって本作で感じた「充実」や「完成」とはそれに近いものなのかもしれない。もし坂本慎太郎が、抑揚のない声ではなく溌剌とした声で「学校へ行ってきま~~っす!!」などと言っていたら、それこそ何の感情もないただの定型の挨拶に過ぎないのでは?そう考えると、本作の歌詞に込められた世界観は決してシュールなどではなく、実はとてもリアルでエモーショナルなんじゃないだろうかと思えてくる。



Bat for Lashes / The Bride (2016)
★★★☆☆
Bat for Lashes The Bride

ナターシャ・カーンによるプロジェクトの4作目。「結婚式の日に恋人を事故で失った女性」というコンセプトなせいか、全体的に祈りや贖罪といったような静謐なムードが漂っている。それゆえこれまでの作品よりも地味、というか一発で耳に残るフックのある曲は少ない気もするが、統一されたムードがあるという点では聴き込むにつれ曲単位ではなくアルバム単位でハマっていくタイプかもしれない。



L'Arc~en~Ciel / SMILE (2004)
★★★☆☆
LArc~en~Ciel SMILE

しばらく中断していたラルクの全アルバムコンプリートをおよそ10ヶぶりに再開。残るは2002~2003年頃のソロ活動期以降、つまり直近の4作。時系列順に1枚ずつ聴いていこうと思う。

それぞれのソロ活動によって新たな方向性を見出したためか、本作はこれまでの作品とは明らかに違うものを感じる。その最も大きな要因となっているのは、kenのギターの音だろう。ものすごくざっくり言ってしまえば、それまでは中世ヨーロッパ的な美意識に貫かれ、流麗なアルペジオが用いられた耽美な楽曲が多かったが、本作では「オルタナ」「グランジ」以降を感じさせるアメリカンな音になっていて、特に冒頭4曲は(新たな方向性を強くアピールするためか)その特徴が顕著にあらわれている。

「Lover Boy」などはかっこいいと思うが、中にはお世辞にもかっこいいとは言えないギターの音色もあったりする。もともと90年代ラルクのヨーロッパ的様式美に惹かれて全オリジナル・アルバムを追うに至った身なので、(『REAL』ですでにその予兆はあったのである程度予測していたとはいえ)正直この路線はあまり喜ばしいものではない。まあ、だからこそ彼らは前作収録の「bravery」で"昔はよかったなんて言わないで"と歌う必要があったのかもしれないけど。

ただ、後半は「Coming Closer」や「永遠」など、同じようにざらついたギターであっても以前からラルクが得意としていた「重さ」や耽美な要素があって好きだったりするし、本作で最も好きなのはラストの2曲「瞳の住人」と「Spirit dreams inside」である。ということで、アルバムの前半と後半でだいぶ評価が分かれる作品となった。



Yung / Youthful Dream (2016)
★★★☆☆
Yung Youthful Dream

デンマーク出身の4人組バンドによるデビュー作。ここ数年ギター・バンドに惹かれることがほとんどなく、デビュー作をリリースタイミングで買うのはいつ以来だろうか。それほどに久しい。

荒削りで疾走感のある曲調、淡いリヴァーヴのかかったしゃがれたヴォーカル、爽やかなメロディとローファイな音の質感などは初期のCloud Nothings(ちょうど『Turning On』の頃)にも通じるものがある。曲はいずれもキャッチーだけど、もう一つ抜きん出た要素があっても良かった。ただ、「途中でテンポやリズムが変わる曲」フェチからすると「Uncombed Hair」はとても素晴らしい曲だ。



中森明菜 / シングルス27 '82-91 (1994)
★★★☆☆
中森明菜 シングルス27 82-91

82年のデビューから91年までにリリースされた27枚のシングルを集めたベスト盤。彼女のベスト盤はいくつか出ているが、初期の選曲が充実した本作と後期の選曲が充実した2014年リリースの『中森明菜 / オールタイム・ベスト -オリジナル-』)のいずれかで迷った末、両方レンタル。収録曲はそれぞれ半分ほどかぶっているが(笑)。後者は未聴なので来月以降に聴こうと思う。

リリース順に並んでるので、デビュー曲「スローモーション」の頃のアイドル然とした歌唱法から、次第に艶めかしさを増して低音を活かした歌唱になっていく様子がよくわかる。あと、幼い頃の記憶のイメージよりもだいぶ打ち込みがチープだったりして驚かされた部分もあった。



【次月予告】※購入済みや予約済みでまだ聴けていないタイトル
中森明菜 / オールタイム・ベスト -オリジナル- (2014)
L'Arc~en~Ciel / BUTTERFLY (2012)
L'Arc~en~Ciel / KISS (2007)
L'Arc~en~Ciel / AWAKE (2005)
UNICORN / SPRINGMAN (1993)
Daryl Hall & John Oates / Big Bam Boom (1984)
Prince / 1999 (1982)
TOTO / TOTO IV (聖なる剣) (1982)
David Bowie / Scary Monsters (And Super Creeps) (1980)
David Bowie / Lodger (1979)
David Bowie / ”Heroes" (1977) *
David Bowie / Low (1977) *
Laura Nyro / Smile (1976)
Mott the Hoople / All the Young Dudes (すべての若き野郎ども) (1972)
Laura Nyro / Gonna Take a Miracle (1971)

* 再購入

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