初聴きディスクレポート

初聴きディスクレポート Vol.88(2016年10月)

201610.png


2016年10月に初聴きした作品のディスクレポートです。今月は比較的枚数が多かったけど、その分多くの素敵な作品に出会えました。

ところで今月23日に、「TYPICA (ティピカ)」というiOSアプリがリリースされました。ものすごくざっくり言ってしまえば音楽版スマートニュース。様々な音楽メディアや個人の音楽ブログのポータルとして、お好みの記事を読みながらそこで紹介されている楽曲をバックグラウンド再生することができます。自分好みのプレイリストも作成することができ、操作性も直観的でサクサク。まさに音楽好きの「こんなアプリあったらいいなあ」を実現したアプリだと思います(実際そのような経緯で制作されているし)。

で、このブログも僭越ながらメディアのひとつとして登録されているので、iPhoneの人はぜひ「TYPICA」アプリをダウンロードして今後もこのブログを見てね!ということです。以上宣伝でした。

TYPICA (ティピカ) - 音楽情報ポータルアプリ ダウンロードページ(Apple Store)




★★★★★ 年間ベスト20位以内クラス*
★★★★☆ すばらしい
★★★☆☆ 標準レベルの良作
★★☆☆☆ 気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆ 期待ハズレ
☆☆☆☆☆ 全然ダメでした

*今年リリースでない場合、旧譜のみの年間ベスト20位以内クラス




10月のALBUM OF THE MONTHは、ひと目惚れに近い形で出会ったこちらのデュオでした。


■ALBUM OF THE MONTH■
MATSU MIXU / Lp1 (2016)
★★★★★
matsu mixu lp1

Soundcloudをサーフィン中にたまたま出会った男女エレクトロ/ダークウェイヴ・デュオによる、今年8月にリリースされたデビュー・アルバム。まずゴス/SM/ボンデージといったイメージを想起させるアジア系の女性が猫を抱えるアー写(※本記事のヘッダ画像参照)に惹かれたし、何よりそのユニット名の語感や、Facebookページのヘッダーを飾る日本の高速道路の写真(「日本橋」と書かれた道路標示)などから「もしかして日本人、あるいは日系人なのでは…?」と強い興味・関心を抱かずにはいられなかった。これらが示す彼らのアート・センスには、昨今の海外における日本ブームに安易に乗っかっただけではないクールさもしっかり感じられる。なお、猫を抱えているヴォーカルの女性はMichelle Yueという名前から、香港など中国南部系由来のハーフと思われる。

楽曲に関してはCrystal Castles(実際、サンプリングもしている)や初期のJesse Ruins、あるいはCoyote Clean Upなどにも通じる、ひんやりとしたエレクトロに浮遊感のあるアブストラクトな女性ヴォーカルを乗せたものがメイン。ミニマルな展開と硬質のビートという点はダークウェイヴ特有のものだが、最小限に抑えられた音の中でリヴァーブの効いたピアノやヴォーカルが美しく鳴り響き、ダークではあるものの攻撃的というよりはドリーミーなサウンドになっている。

存在を知ってからアルバム購入(フィジカル盤は未リリースのためiTunesにて購入)に至るまでのスピードとしては個人的にここ数年で最速であり、それほどに即効性やインパクトの強い作品だった。なお、Spincoasterでも本作収録曲「Fried Chicken Dossier」を取り上げている。

MATSU MIXU - "Fried Chicken Dossier"




Nick Cave & The Bad Seeds / Skeleton Tree (2016)
★★★★★
Nick Cave The Bad Seeds Skeleton Tree

同名義による16作目。2008年の前々作『Dig, Lazarus, Dig!!!』しか聴いたことがないので前作『Push the Sky Away』がどうだったのかはわからないが、とにかく本作と『Dig,~』とでは全くムードが異なる。

ここで聴けるのは粗野なロックンロールではなく、荘厳で神々しいまでのバラッドたち。喪失感と悲哀に満ちたNick Caveの低い声と、朧気で美しい楽曲とが醸し出すムードは、昨年亡くなった息子へのレクイエムのように聞こえるとともに、Johnny Cashが晩年に残した作品群『American』シリーズ(「Hurt」を聴くだけでも、この作品との共通点を見出すのは難しくはないはず)に通底する「悟り」「解脱」といったものが感じられる。

Nick Cave & The Bad Seeds - "Girl In Amber"




Peter Gabriel / Peter Gabriel
(aka "Peter Gabriel 1" or "Car") (1977)

★★★★★
Peter Gabriel 1

元Genesisのヴォーカリストによるソロ・デビュー作。曲は「Sledgehammer」を知っている程度だったが、先月のALBUM OF THE MONTHにも選出したFrancis and the Lightsの『Farewell, Starlite!』がリリースされた直後、田中宗一郎氏が「(『Farewell, Starlite!』が)醸し出すムード、何かに似てると思ってたんだけど、ピーター・ゲイブリエル77年の1stソロかも」とツイートしていたのが本作を聴くに至ったキッカケ。

同じくGenesisのメンバーとして活躍したPhil Collinsと比べると、ピーターはシリアスで神経質でクレイジーな人という印象を抱いていたのだけど、曲はPhil Collinsとは違う意味で非常に親しみやすいポップなもの。しかし同時にアーティスティックでもあり、後期のThe Beatles、初期のTodd Rundgren、あるいは90年代後半のThe Flaming Lipsのように、ポップさと高い芸術性・実験性を持ち合わせた作品だと言える。

Peter Gabriel - "Moribund the Burgermeister"




Crystal Castles / Amnesty (I) (2016)
★★★★★
amnesty-i-crystal-castles.jpg

アリス・グラス脱退後初となるアルバム(通算4作目)。

楽曲においてもルックスにおいてもライヴ・パフォーマンスにおいてもアリスが担う魅力のウェイトは非常に大きかったため、脱退(というか当時は、イコール解散だと思っていた)にはかなりの喪失感を味わった。しかし今回から新たに加入したエディス(Edith Frances)に関してはルックスもアリスに見劣りしないパンク・ゴス・ビューティーだし、かといってアリスの完コピではなく個性がある。歌声に関してはまさにジャーニー的、あるいはWANDS的手法を用いており違和感がなく、よくぞここまでの適任を見つけたなと。

個人的にも大名盤である前作『(Ⅲ)』はさすがに超えていないが、メンバーチェンジを経ての最初の作品としては申し分ないクオリティ。今後、エディスがアリス以上の暴れっぷりやキレっぷりを発揮できれば、もっと大きなインパクトを与えられると思う。新体制でのライヴ・パフォーマンスも早く観てみたい。

またM11「Kept」は、クレジット上はBeach Houseの曲がサンプリングされているようだが曲名までは明記されておらず、細かくエディットされすぎて何の曲なのか不明。誰か情報ください。

Spincoasterの「Crystal Castles / Concrete」紹介記事はこちら。

Crystal Castles - "Char"




L'Arc~en~Ciel / KISS (2007)
★★★★★
LArcenCiel KISS

昨年から現在にかけて一大マイブームを巻き起こしているラルクの11作目。全オリジナル・アルバム制覇まであとひと息。

1回目に聴いた時は、せっかく前作『AWAKE』が良かったのにまたちょっと中途半端な感じに戻ってしまったなと思ったけど、2回目には「いやいやこれとても良いじゃん!」と思い直した(確かに『AWAKE』の方が好きではあるけど)。

初聴きで中途半端に感じられた要因でもあるのだが、本作は大まかに前半・中盤・後半とに分けられると思う。前半M1~M5は『SMILE』、『AWAKE』を踏襲した、活動再開後のオルタナティヴ・ロック寄りな一面が出ており、M6~M8は『Tierra』や『Heart』の耽美な感じが強く、後半M9~M12はストリングスやホーンを前面に押し出し『heavenly』期のようなゴージャスなJポップ感に満ちている。いわばこれまでのラルクの集大成のような作品だと思う。



BLANKEY JET CITY / C.B.Jim (1993)
★★★★★
BLANKEY JET CITY CBJim

90年代を代表する3人組ロック・バンドの3作目。ブランキー自体は中学時代から好きだったものの、これまで『THE SIX』、『国境線上の蟻』、『1991-1995』、『1997-2000』といったベスト盤全種、それとライヴ盤『Last Dance』、7作目『ロメオの心臓』を聴いたのみでだいぶ知った気になっていたので、今後オリジナル作を揃えていこうと思う。

本作は、ベスト盤でもおなじみの人気曲「PUNKY BAD HIP」や「D.I.J.のピストル」、「ICE CANDY」、「3104丁目のDANCE HALLに足を向けろ」、さらにDavid Bowie「Five Years」の双生児のような名曲「悪いひとたち」までが同じアルバムに入っているという、まさに奇跡のような作品。ちなみに「悪いひとたち」は歌詞の「麻薬」という部分がカットされたヴァージョンで収録されている。

ブランキーの音楽は今の若者には全くウケないと思うし、ヘタをすると失笑すら買うだろう。「不良少年」「退廃的な世紀末感」「マフィアや娼婦などが蔓延る裏社会」などが主人公および舞台となったその寓話的世界観は、映画好きな浅井健一の趣味・嗜好が強く反映されたものだが、とりわけ主観性やリアルな世界、そして共感が求められがちな現在の日本のロック・シーンにおいては夢想的過ぎるのかもしれない。

さらには日本における「ヤンキー文化」、いわゆるサングラス/リーゼント/エンジニア・ブーツ/ウォレット・チェーン/ライダース・ジャケット/スカル・モチーフ/バイクなどといった要素が当時ほどかっこいいものとされず(当時でさえすでに微妙だったが)、ヤンキーはダサいもの、田舎臭いものとされる現代、そして社会的に真に怖れるべきはヤンキーではなくネット・ギークだという現代において、「いいだろう オレのこのサングラス」などという歌詞は当時とは全く別のニュアンスに聞こえ、もはやギャグにとられかねない。おまけに楽曲のベースになっているのはロカビリーやロックンロール。悪く言えば前時代的だ。

でもブランキーの曲を聴くと、死んだフリをして遊んだり、メロンソーダが好きだったりした純粋無垢なあの頃の自分が抱いていた「あの時代のヤンキー像」に対する微かな憧れと畏怖の念が思い出され、どうにも甘酸っぱい気持ちにさせられてしまう。

BLANKEY JET CITY - "D.I.J.のピストル (代々木公園野外ステージ フリーライヴ)"




Biffy Clyro / Ellipsis [Deluxe Edition] (2016)
★★★★★
Biffy Clyro Ellipsis

英スコットランドの3人組による7作目。ライヴでの爆発力に満ちたエネルギッシュなパフォーマンスが魅力の彼らだが、これまでに聴いた過去作(『Puzzle』、『Only Revolutions』、『Opposites』)はいずれもライヴと比べると音のマッシヴさが半減してしまっていたのが残念だったし、プロダクションが全体的にイギリス特有の湿った質感だったのが彼らの音楽性にマッチしていないと感じていた。

しかし今回はカリフォルニア録音ということや、個人的にも最も好きなプロデューサー/エンジニアの一人であるリッチ・コスティ(Museの『Absolution』や『Black Holes and Revelations』、Mewの『Frengers』など)がプロデュースを手掛けており、ボトムの効いたダイナミックなドラム・サウンドや、ストリングスにシンセといった「バンドメンバー以外」の装飾がとても凝っていて、音の配置や鳴り方の一つ一つにこだわりが感じられる。リッチはミキシングには関わっていないようだが、彼がミキシング・エンジニアにいろいろと指示を出したりしているのだろう。MuseやMewの諸作と同様、クリアで奥行きのある、かつドンシャリの効いた重厚なロック・サウンドに仕上がっている。

楽曲のアレンジについても、ただヘヴィを極めるのではなくこれまで以上にヴァラエティ豊か。子供のコーラスをフィーチャーしたM2「Friends and Enemies」、カントリー風なM9「Small Wishes」、美しいミディアム・バラードのM4「Re-Arrange」やM11「People」など新たな魅力も加わり、彼らの成長と進化が最もよく表れた作品と言えそう。

Biffy Clyro - "Animal Style"




The Smashing Pumpkins /
Adore [Super Deluxe Edition] (2014)

★★★★☆
The Smashing Pumpkins Adore [Super Deluxe Edition]

自分の人生においてもかなり重要な作品である心の名盤、スマパンの4作目『Adore』のリマスター再発にボーナス・ディスクをプラスした7枚組デラックス盤BOX。『Adore』は元々アナログ・リスニングに適した音作りだったと思うし、そういう観点からすると他のアルバムに比べリマスターする意義はあまり感じなかったが、やはり家宝にしたいほど好きな作品ではあるしボーナス・ディスクも気になるということで遂に購入。今月はDisc 1~3までを聴いた。『Adore』自体はもちろん★を10個付けても足りないくらいだが、リマスターということもあり「初聴き」ではないので、ここではDisc 3のみで評点。

Disc 1 『Adore Stereo Remastered』
交互に聴き比べたりしたわけではないので実際リマスターと旧盤との違いはほとんどわからなかったが、最も違いが顕著に感じられたのは「To Shiela」だろうか。アコギの音に深みが加わり、ビリーのヴォーカルがよりクリアに澄んで聞こえる。

Disc 2 『Adore Mono Remastered』
こちらはモノラルなので旧盤との違いが歴然としている。デジタルに変換する前のマスターということで音の質感も全く違うし、M3「Perfect」とM4「Daphne Descends」が繋がっていない。また、16曲目の「17」はこちらには収録されていない。

Disc 3 『In a State of Passage』
多数の未発表曲のほか、『Adore』に正式採用された楽曲の原型も含む、それぞれ(Sadlands demo)、(CRC demo)とカッコ書きが付いた全18曲のデモ集。Sadlands demoの方は基本的にビリーのソロで、CRCの方はおそらくバンドでの初期セッションと思われる。

ここで驚かされるのは、ビリーの完璧主義者というかコントロール・フリークな一面だ。かなり初期の段階であるにもかかわらず、すでにビリーの頭の中では完成形が鳴っているのだということがわかるし、それゆえにこの後バンドは崩壊に向かっていったのだということは想像に難くない。

M15「For Martha (CRC demo/Take 1)」は実際にリリースされた完成版と比べると曲構成も異なるが、ビリーがひたすら頭の中で鳴っている「完成形」を目指して演奏する中、他のメンバーが次の展開を探り探りで「合わせていく」さまが記録されていて、スタジオでの緊張感がこちらまで伝わってくる。そういう意味ではとても貴重だが、ラストM18にも同曲のインスト・デモが収録されているので、どちらかだけで良かったのではと思う。そんなところが★ひとつマイナス。



工藤静香 / MY PRECIOUS
-Shizuka sings songs of Miyuki- (2008)

★★★★☆
工藤静香 MY PRECIOUS -Shizuka sings songs of Miyuki-

工藤静香による、中島みゆき楽曲のカバー集。

(元アイドル含め)「好きな女性アイドルは?」と聞かれたら迷わず山口百恵と工藤静香の名を挙げるだろう。要は哀愁を帯びたメロディと歌声に魅力を感じるのだけど、そんな工藤静香のベスト・トラックは「激情」だと思っている。その「激情」は1996年にリリースされた28枚目のシングルで、工藤静香の曲で初めて中島みゆきが作詞・曲ともに手掛けている。中島みゆきの得意とする少し陰のある哀愁メロディと工藤静香の歌唱はまさにマリアージュで、同様のタッグによる「雪・月・花」も大好きな曲だけど、中島みゆきが詞・曲ともに手がけた工藤静香の曲は本作リリース時点で3曲しかないのが少し物足りなくも思っていた(3曲ともボーナス・トラックとして本作に収録)。

そんなわけで、つい最近ようやく本作の存在を知った際にはとても興奮してしまったのだが、「空と君とのあいだに」や「浅い眠り」など中島みゆきの曲として耳馴染みのある曲も原曲を超えるほど素晴らしく、二人の相性の良さをあらためて実感できる。が、中島みゆきがTOKIOに提供した「宙船」のカバーはかなり期待していたものの、アレンジが微妙だったのが唯一残念なところ。



スピッツ / CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection (2006)
スピッツ / CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection (2006)

★★★★☆
スピッツ CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collectionスピッツ CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection

今年リリースされた新作『醒めない』が高い評価を受けている彼ら。そんなわけで自分も『醒めない』を聴いてみようと思うのだが、そもそもスピッツは2000年の9作目『ハヤブサ』と、曰くつきの旧ベスト『RECYCLE』くらいしか聴いたことがない。いずれもリリース時にリアルタイムでよく聴いていたけど、その時点で彼らのディスコグラフィはすでにそれなりの数だったし、楽曲クオリティに優劣の「劣」がないためにどのアルバムを聴くべきか絞れないまま、結局聴かずじまいでいたのだった。

そんなわけで『醒めない』を聴く前に、まずはあらためて過去の名曲を聴いてみようということで手にしたのがこの2つの2006年版ベスト。『RECYCLE』になぜ収録されなかったのか謎すぎるくらい、M1~M6の初期楽曲も素晴らしいし、『RECYCLE』以降のシングルも「スターゲイザー」(『あいのり』観てたなあ、懐かしい)をはじめとして草野マサムネのメロディメイカーっぷりにあらためて感服。しかし今回あらためて気付かされたのは歌詞の魅力。情景豊かで、ふっと耳に留まる言葉のチョイスのセンスも素晴らしい。



Radiohead / In Rainbows [2CD Special Edition]
(2007)

★★★★☆
Radiohead In Rainbows [2CD Special Edition]

「Radioheadで最も好きなアルバムは?」というのはとても厄介な質問だ。どのアルバムにもそれぞれの良さがあり、その日の気分によって答えは変わる。『Pablo Honey』、『The Bends』、『OK Computer』、『Amnesiac』、『Hail to the Thief』のいずれかが最も好きなアルバムである時が多いが、大抵は一つを選べない。ときどき『Kid A』や『The King of Limbs』の時もある。もちろん最新作『A Moon Shaped Pool』も、7月のALBUM OF THE MONTHに選んだほど大好きだ。

しかし彼らのアルバムの中で唯一、これまで一度も「最も好きなアルバム」になったことがないのがこの『In Rainbows』である。世間的には彼らの作品の中でもとりわけ評価が高いようだけど、僕にはこの作品の何がそんなに良いのかよくわからない。良いことは良いけど、彼らの作品の中では「中の上」どまりだと思う。理由はまあ、いろいろあると思うけど、正直自分でもよくわからない。そこで僕は、本作にそれほどの魅力を感じないのはもしかしたらスペシャル・エディションのDisc 2を聴いていないからなのでは?と考えた。

結論から言うと、Disc 2はかなり良かった。全体としてはDisc 1よりも好きだし、これまで聴かずにいたことが悔やまれるほど。「あの曲の代わりにこの曲が本編に入っていたら、『In Rainbows』も最高だったのでは、などと考えながらうっすらと気付き始めたこと━━あ、たぶん『Kid A』期の焼き直しのような1曲目「15 Step」と、初期ファンへの目くばせのような2曲目「Bodysnatchers」がどうにも好きではないのだ。



Duran Duran / Rio (1982)
★★★★☆
Duran Duran Rio

映画『シング・ストリート』の中でも主人公たちの憧れる最新ニューウェイヴ・バンドとして扱われていた彼らの二作目にして代表作。TM NETWORK「イパネマ '84」のサックス・ソロの元ネタになったと思われる「Rio」や、「Hungry Like the Wolf」といった有名曲が収録されているが、それ以外の曲もキャッチーでダンサブル。グリッターなギター、キラキラのシンセ、ファンキーにうねるベース、色気のある歌声、どれも80's感に溢れていて素晴らしい。



Jenny Hval / Blood Bitch (2016)
★★★★☆
Jenny Hval Blood Bitch

ノルウェー出身の女性SSW、Jenny Hval(読み方は「イェニー・ヴァル」)の6作目。アルバムを買ったのは初めて。

ここまで「不穏さ」と「ポップさ」の同居するサウンドというのもなかなか作れないと思う。そして本作のアートワークはその「不穏さ」と「ポップさ」を見事に象徴している。表1ジャケットはパッと見、二人のカップル(女性同士のように見える)が頬を寄せて佇む、淡い色彩のポートレート。でも裏を見ると、顔に張り付いた薄い粘膜状のものを食いちぎっている。さらにバックカバーはFunkadelic『Maggot Brain』のジャケをさらにホラーにしたような写真だ。

前半はディレイを効かせた彼女のウィスパー・ヴォーカルが浮遊するサイケデリックなドリーム・ポップだが、5曲目以降は不穏でアヴァンギャルドな曲中心という構成。そんなにディレイ掛け過ぎなくてもいいような気もする。



Jack Garratt / Phase [Deluxe Edition] (2016)
★★★☆☆
Jack Garratt Phase

「BBC Sound of 2016」でウィナーとなり、今年のフジロックにも出演した男性SSWのデビュー・アルバム。ソウルフルな歌声が魅力の、R&Bやエレクトロニカの要素を持つ男性ソロ・アーティストという意味ではÁsgeirやSohnとも親和性が高いと思う。が、フォークの側面が強い前者やエレクトロニカの側面が強い後者と比べ、Jack Garrattはブルージーな要素を備えている点が異なると思う。彼の経歴を調べてみると、数年前にアコースティック・ブルーズな作品を制作(後にお蔵入り)したこともあるらしい。

時に優しく、時にムサ苦しいダミ声を聴かせる彼の歌はÁsgeir、Sohn以上にエモーショナル。本編ラストの「My House Is Your Home」やデラックス・エディションのボーナスディスクに収録された「Water (Acoustic)」は、そんな彼の魅力が最も凝縮された曲だと思う。



Aphex Twin / Cheetah EP (2016)
★★★☆☆
Aphex Twin - Cheetah EP

90年代にCheetah社から発売されたシンセサイザーCheetah MS800とSequentix社から発売されたシーケンサーCIRKLONを用いて制作されたというEP(ま、彼のことだから本当か嘘かはわかりません)。そのせいかこれまでの作品とは少し音の質感が異なる。ローファイかつジングル的なM3「CHEETA1b ms800」やM4「CHEETA2 ms800」などはまるでOneohtrix Point Neverのようだ。ただ、ビートはシンプルで全体的に狂気性や変態性はかなり薄く、Aphex Twinの作品としては少し足りなくも感じるが、例えばこれをEBM(Electronic body music)/IDM(Intelligent dance music)といったアンダーグラウンド・テクノの文脈として聴くとこれはこれでアリだなと思う。



Carly Simon / Film Noir (1997)
★★★☆☆
Carly Simon Film Noir

Laura Nyroと同じくブロンクス出身の女性SSWによるスタジオアルバム19作目。1940年代~50年代のフィルム・ノワールをテーマにしたスタンダード・カバー集。90年代ともなるとさすがに70年代の彼女の作品とは声質が異なり、滑らかさのようなものはやや失われているものの、むしろこのサウンドには合っているかも。



Viola Beach / Viola Beach (2016)
★★★☆☆
Viola Beach Viola Beach

このジャケットに写る4人の若者(とバンドのマネージャー)はもういない。不慮の事故によりメンバー全員がこの世を去るという悲劇に見舞われたバンドによるデビュー作にしてラスト作。UKではチャート1位を記録している。

おそらく不幸な出来事がなければチャート1位を獲得することはなかっただろう。しかし、そこまでではないにしても一定の評価を得て、一定のセールスを記録したはず。似たようなサウンドを奏でるバンドが数多く存在するため、その中の一つとして埋もれてしまったかもしれないが、それでも瑞々しいメロディと「The Drums、Beach Fossils以降のサニー・ポップなサウンド」の正統派な継承者として今後の活躍も期待できただけにラスト作というのが非常に惜しい。



中森明菜 / オールタイム・ベスト -オリジナル- (2014)
★★★☆☆
中森明菜 オールタイム・ベスト オリジナル

8月に聴いた初期ベスト盤『シングルス27 '82-91』と同時にレンタルした、また別のベスト盤。こちらは91年以降、最近の楽曲も含まれている。なのでDisc 1は全曲『シングルス27 '82-91』と被っているため、ここでは主にDisc 2について書きたい。

小室哲哉プロデュースによる名曲「愛撫」(TKプロデュース楽曲の中でも個人的にかなり上位に位置する)、これぞ明菜節!と言える官能的な「月華」や「落花流水」、そして「原始、女は太陽だった」や「APPETITE」、「The Heat ~music fiesta~」、「花よ踊れ」といったラテン/サルサ調の曲はやはり彼女のキャラクターや歌声に合っていて艶やか。しかし中には「Crazy Love」のように「これ2010年の曲?95年じゃなくて?」なダサい曲も。安っぽいユーロ・ダンスほど彼女に合わないものはない。



UA / JaPo (2016)
★★★☆☆
UA JaPo

フジロックで観たライヴがとても良かったUAの7年振り9作目。

ライヴではアップリフティングで力強い印象を抱いたけど、ここでは軽めというかユルめのレイドバックしたサウンドが鳴らされている。UAの歌声も以前と比べると随分と控えで優しげになったように思う。民族的、土着的な要素は相変わらずながら、ビートの音圧が弱めなせいかナチュラリストによるリラクゼーション・ミュージックという感じ。個人的にはもう少し低音を効かせたりエレクトロニックな音を加えて、小林うてなの『VATONSE』のようなアプローチだったらもっと面白かったと思う。



Lido / Everything (2016)
★★★☆☆
Lido Everything

Mura Masaと並び、「ポスト・Jamie xx」と称されるノルウェー出身のトラックメイカーが、かねてより待望されていたデビュー・アルバムをまさかのフリーDLでリリース。

が、ここで鳴らされているのはビート・ミュージックと呼ぶにはやや大人しめのサウンド。マスタリングが不十分なのか意図的なのかはわからないが音圧は弱めで、音がこもって聞こえるのが気になる。

全体的に既聴感のある食傷気味なタイプの曲が多かったが、そんな中でも最も惹かれたのがM9「You Lost Your Keys」だ。この曲は音数の極めて少ない洗練されたピアノ曲で、ポール・サイモンのような繊細な歌声がフィーチャーされている。もしかしたら、リスナーの耳の照準をこの曲合わせるために他の曲の音圧を下げ、柔らかなイコライジングで統一したのでは?と思ってしまったほど。

ストリーミングはこちらの特設サイトから可能。



Brian McKnight / From There to Here: 1989-2002
(2002)

★★★☆☆
Brian McKnight From There to Here 1989-2002

90年代を代表する男性R&Bシンガーのベスト盤。90年代に大流行した甘ったるくスロウなR&Bバラード(Boyz II MenやNew Editionみたいな)は当時非常に苦手だったのだが最近聴けるようになり、先日MTVの90年代ヒット曲特集でBrian McKnightとVanessa Williamsによるデュエット「Love Is」を久々に(それこそ23年ぶりくらいに)聴いたらめちゃくちゃいい曲だということに気が付き、その曲が収録されたベスト盤をチョイス。

R&Bバラードばかりかと思いきやラッパーのMaseやMr. Cheeksをフィーチャーしたヒップホップ・ナンバーもいくつかあったし、たまに声が似ている時があるせいかスティーヴィー・ワンダーを彷彿させる曲もあったりと、意外に多彩だった。



M.I.A. / AIM [Deluxe Edition] (2016)
★★☆☆☆
MIA-AIM

本人がラスト作になるとも語っていた5作目。前作『Matangi』がガンギマリ状態でぶっ飛んだ作品だったうえに、今回はSkrillexやDiploが参加しているということで期待もこれまで以上だったのだが…。

正直、期待外れな内容。トラック自体は決して悪くはない。ただ、これがM.I.A.の楽曲となるととても「当たり障りのない普通の曲」に聞こえてしまう。例えばこれまでも「Paper Planes」や「XXXO」や「Come Walk With Me」がそうだったように、メインストリーム寄りだったり、キャッチーなメロディが鳴っていたりするのは別に構わない。ただ、それらの曲もM.I.A.らしいトガった部分やぶっ飛んだ部分が確かにあった。でも今回は全体的にどこかで聴いたようなサウンド・プロダクションで、そこに彼女が歌うことの必然性があまり感じられず、デラックス盤は全17曲というヴォリュームにもかかわらず何も心に引っかかりがないまま終わってしまう。これが彼女の言う通りラスト・アルバムだとすると、何とも言えない消化不良さを感じる。



【今後の予定】※購入/予約/レンタル済みの未聴タイトル
AlunaGeorge / I Remember (2016)
American Football / American Football (2016)
Danny Brown / Atrocity Exhibition (2016)
Esben and the Witch / Older Terrors (2016)
Hope Sandoval & The Warm Inventions / Until The Hunter (2016)
入江陽 / SF (2016)
My Little Lover / re:evergreen (2015)
柴田聡子 / 柴田聡子 (2015)
The Smashing Pumpkins / Adore [Super Deluxe Edition] (2014) Disc 4~8
How To Destroy Angels / Welcome Oblivion (2013)
L'Arc~en~Ciel / BUTTERFLY (2012)
Dolores O'Riordan / Are You Listening? (2007)
Prince and The New Power Generation / Love Symbol Album (1992)
En Vogue / Funky Divas (1992)
En Vogue / Born to Sing (1990)
Peter Gabriel / So (1986)
David Bowie / Scary Monsters (And Super Creeps) (1980)
Pink Floyd / The Wall (1979)
David Bowie / Lodger (1979)
David Bowie / ”Heroes" (1977) *
Electric Light Orchestra / A New World Record (邦題:オーロラの救世主) (1976)
Laura Nyro / Smile (1976)
* 再購入
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